映画「ポプラの秋」--人は執り成しの祈りに心癒される
あの世に人に手紙を届けてあげると言うおばあさん。その言葉を信じて病気で死んだと聞かされている父親宛に毎日のように手紙を書いて手渡す少女。それは、生き残った者の思いをあの世に届ける執り成しの働き。おばあさんに手紙を届けているうちに千秋の思いは自分のことだけではなく、周りの人のことも慮る思いへと成長していく。
東京の晴れた朝。看護師の星野千秋(村川絵梨)は、睡眠薬で夜勤けの眠りに身体を沈めている。何度もなる携帯電話に出ると母つかさ(大塚寧々)からだった。幼いとき、住んでいたアパート「ポプラ荘」の大家のおばあさん(中村玉緒)が亡くなったという。
大家のおばあさんの葬式に出るため「ポプラ荘」へ行く千秋。そこは、7歳だった千秋(本田望結)が、大好きだった父親が病死して間もなく、母つかさと当てもなく電車を乗り継いでたどり着いた飛騨高山のアパートだった。最初、大家のおばあさんは子どもが好きではない様子で少しこわかった。だが、千秋が高熱を出したため数日だけつかさが仕事に出ている間おばあさんの世話になり、大家のおばあさんの思いやり触れて仲良しになった。
千秋は、このとき大家のおばあさんの秘密の役目を聞かされた。大家おばあさんは、あの世の人に宛てて書いた手紙を届けるのだという。仏壇の隣にある箪笥の一番上の引き出しがいっぱいになるまで自分は生きているが、死んだら棺の中に手紙を全部入れて届けるのが役目だという。あの世の人は特別な能力があって、この世の人が書いた内容は知ることができるのだという。
千秋は、大家のおばあさん秘密の役目を信じた。さっそく大好きだった父親に毎日のように手紙を書く千秋。だが、大家のおばあさんと誰にも言わない約束をしたのをうっかり忘れて、母のつかさに話しただけでなく「お母さんもお父さんに手紙を書いたら」と勧める。
大家のおばあさんは霊媒師のような存在ではない。あの世からの応答を受け取るわけではない。ただ、あの世の人への手紙を受け取って届ける務めを約束する。あの世の人は特別な能力があって、おばあさんに渡した手紙の内容は知ることはできるという。おばあさんの執り成しを信じて、手紙を書けばあの世の人への思いも素直に書ける。それは、祈りにも似て癒される。
千秋だけでなく、おばあさんの執り成しを信じて手紙を渡していた人が大勢いた。愛する人を亡くして受け止めきれない現実を、手紙をとりなす人に託して癒された人たち。人は、執成してくれる存在がいていやされる。 【遠山清一】
監督:大森研一 2015年/日本/98分/映倫:G/ 配給:アスミック・エース、シナジー 2015年9月19日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
公式サイト http://popura-aki.com
Facebook https://www.facebook.com/popuranoaki
*Awards* 2015年第39回モントリオール世界映画祭フォーカス・オン・ワールド・シネマ部門正式招待作品。第18回上海国際映画祭パノラマ部門正式招待作品。