映画「無頼漢 渇いた罪」--誰かと繋がっていたい 愛を求める人間の哀しみ
警察と組織から逃げ続ける殺人犯。その男をかばい、待ち続ける女。その女におとり捜査で近づき、気づかぬうちに愛情を抱いていく殺人課の刑事。オ・スンウク監督は、いわば裏社会を舞台に、「無頼漢で乱暴な一匹狼の警官を描いたハードボイルド・メロドラマ」とコメントしている。愛してはいけない立場の女性に、心揺らぐ刑事。待つことにつかれている女心の揺らぎ。誰かに自分を見つめていてほしい、誰かと繋がっていたい。心の奥深くから渇き、愛を求める人間の哀しみが、静かで激しい映像美とJAZZYなメロディにのって届いてくる。
熱い正義感に刑事としてのプライドをもつ殺人課のチョン・ジェゴン刑事(キム・ナムギル)。猟犬のように執拗に殺人犯パク・ジュンギル(パク・ソンウン)に追い迫る。パクは、かつて投資会社の専務の部下だったが、専務の愛人キム・ヘギョン(チョン・ドヨン)を愛してしまい、ジュンギルとヘギョンは会社を去って逃げた。だが、ヘギョンに執着する専務は、ジェゴン刑事が尊敬していた元先輩刑事を介して無理やり賄賂を送り付け、逮捕する時にパクの足を1発撃ち抜くよう強要する。
ジェゴン刑事は、ヘギョンがマダムを務める場末のバーを突き止め、ジュンギルの刑務所仲間を装いイ・ヨンジュンと名乗ってヘギョンに近づきジュンギルが連絡してくるのを待つ。ジェゴン刑事は、ヘギョンから店の営業部長を任され、イ・ヨンジュンとして売掛金回収に同行する。簡単に友達はつくらないジュンギルを知るヘギョンは、馴れ馴れしく近寄って来るイ・ヨンジュンを怪しみながらも、しだいに打ち解けていく。そしてジェゴン刑事も、ジュンギルを逮捕するためとはいえヘギョンに言いようのない罪悪感のような思いが湧いてくる。ジュンギルがヘギョンに金を無心したようだ。3人の関係は一挙に緊迫する。
昨年公開された「マルティニークからの祈り」では、町工場の借金返済のため出来心で麻薬密輸事件に巻き込まれ2年以上も家族と離れ離れになったた妻を演じたチョン・ドヨンが、逃亡している男をひたすら待ち、会えば金の無心に新たな借金をつくる奈落に落ちた女性の哀しみを説得力豊かに演じている。逃亡生活でも賭け事から抜け出せず、ヘギョンを裏切ることも捨てることもできない殺人犯を演じるパク・ソンウンの存在感。刑事として殺人犯の愛人をおとり捜査に利用していることの後ろめたさなのか、彼女の健気さにひかれているのか分からない心の揺らぎと戸惑いを演じるキム・ナムギルの強さと哀しみ。罪深い闇の中にあっても愛という光を求める三人三様の心の渇きは、みごとなまでにリアルだ。 【遠山清一】
監督:オ・スンウク 2015年/韓国/韓国語/119分/映倫:G/原題:無頼漢、英題:The Shameless 配給:ファインフィルムズ 2015年10月3日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国ロードショー。
公式サイト http://www.finefilms.co.jp/buraikan/
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*AWARD* 2015年第68回カンヌ国際映画祭ある視点部門ノミネート作品、第18回上海国際映画祭芸術貢献賞受賞作品。