ひとり娘キャスを愛し、成長を楽しみにしているマシューだったが (C)Queen of the Night Films Inc.
ひとり娘キャスを愛し、成長を楽しみにしているマシューだったが (C)Queen of the Night Films Inc.

幼児・児童の連れ去り・誘拐事件が後を絶たない。2013年度は、13歳以下の子供たちが前年比1,300件以上増えて26,900件を超える被害にあっている。両親や保護者の心配と地道な情報収集を願う活動は身につまされる。この作品は、街頭の防犯カメラやインターネットでの情報拡散とバーチャルなつながりの中でも、忽然と見えなくなり、身代金要求さえない不気味な犯罪社会の病理を啓発している。サスペンスとしては、手口や詰めの甘さなどが見られても、爛熟しつつあるネット社会は、飽くなき欲望追及を拡張させているかのようで空恐ろしい。

アメリカとの国境に近いナイアガラフォールズの町で造園業を営むマシュー・レイン(ライアン・レイノルズ)は、フィギアスケートの練習を終えた9歳のひとり娘キャスを車に乗せて帰宅途中、チェリーパイを買うためダイナー(プレハブ式レストラン)に立ち寄った。数分後、車に戻ったマシュー。だが、後部座席にいたキャスの姿が忽然と消えていた。

店に寄ったときも、車に戻った時も近くに車は見当たらなかった。未成年者の性犯罪事件を担当するニコール・ダンロップ刑事(ロザリオ・ドーソン)と元殺人課のジェフリー・コーンウォール刑事(スコット・スピードマン)に、事情を説明しながら何者かに誘拐されたと主張するマシュー。そこに妻のティナ(ミレイユ・イーノス)が駆けつけてきた。あまりのことに激しく動揺するティナは、マシューを見るなり取り乱して激しく非難する。誘拐の状況証拠が見当たらないことからコーンウォール刑事は、会社の借金を抱えているマシューに、返済のために娘を売り飛ばした狂言ではないのかと疑いの言葉を浴びせる。

8年も娘を捜し続ける夫に複雑な思いのティナ (C)Queen of the Night Films Inc.
8年も娘を捜し続ける夫に複雑な思いのティナ (C)Queen of the Night Films Inc.

キャスの失踪から8年が経った。離婚はしていないがティナは夫への不信感と心の傷がいえぬまま別居してホテルのルームサービスの仕事で暮らしている。時折り、捜査班のリーダーに昇格したダンロップ刑事と面談し近況や情報交換の時を持っているが進展はない。マシューは、誰にも信じてもらえない誘拐犯とキャスを単独で捜しまわっている。

だが、ある日突然、ティナがホテルの客室を掃除していると、キャスのお気に入りだったヘアブラシが見つかった。数日すぎると、キャスがスケート大会で受賞したトロフィーが、やはり客室で見つかった。次いでケースに入ったキャスの乳歯も…。あまりの不気味さとショックで、ティナはマシューにこのことを連絡する。

そして、警察でも小児性愛者向けの違法な会員制ウェブサイトに、キャスらしい少女の画像があるのをコーンウォール刑事が発見した。何のためにキャスの身近は品物が、これ見よがしにホテルの客室から発見されるのか。そして、違法な会員制ウェブサイトの運営グループは何者なのか。マシューは、キャスが生存していることを確信して、わずかな糸口を必死に手繰り寄せようと奔走する。

愛するわが子が、ある日突然姿を消す。つい先ほどまで見えていたのに、消息さえ分からなくなる困惑と悲嘆は、どれほど時がたっても納得できるものではないだろう。北朝鮮による日本人拉致事件も被害者家族が、必死に地道に捜し歩いた長い道程から浮かび上がってきた。誘拐によるそのような塗炭の苦しみや怒りの姿が、テレビ報道やネット情報などで、時には配慮に欠ける形で拡散される現代社会。時間も空間も距離をも超えて、犯罪に加担し直接手を下していない気楽さが、人間の心の闇を押し広げている。“愛”という光が、独善的な欲望という外套を脱ぎ捨てさせるようにと祈らされる。 【遠山清一】

監督:アトム・エゴヤン 2014年/カナダ/英語/112分/映倫:G/原題:The Captive 配給:キノフィルムズ 2015年10月16日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国順次公開。
公式サイト http://shiroi-chinmoku.com
Facebook https://www.facebook.com/pages/白い沈黙/840657269350059

*AWARD* 2014年第67回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品。