映画「フランス組曲」--各社階層の人々の戦争という時代の生きざま描く
ロシア革命後に一家でフランスに移住したユダヤ人作家イレーヌ・ネミロフスキー。アウシュヴィッツで39歳の生涯を閉じた彼女が、娘に託したノートに書きした未完の遺作を映画化したもの。第2次大戦下、ドイツ軍に占領されたフランス中部の田舎町を舞台に、極限的な状況の中で市井の人々の剥き出しになっていく生き様を描いている。原作は、2004年にフランスで出版されルノドー賞を受賞している(邦訳は2014年、白水社刊)。本作の脚本は、原作のフランス語ではなく基本的には英語版。物語は、原作の第2部に登場するリシュルを中心に脚色し描いている。
六月の嵐--1940年、ドイツ軍の爆撃を受けたパリから、フランス中部のビュシーの町にも大勢の人々が逃れてくる。地主アンジェリエ夫人(クリスティン・スコット・トーマス)の息子は出征し、嫁のリシュル(ミシェル・ウィリアムズ)がいっしょに暮らしている。義母のアンジェリエ夫人はリシュルを伴い小作人ラバリ家から賃貸料を回収し、食料の買いだめをしている。だが、ラバリ一家を追い出しパリから逃れてきた少女アナと母親に倍の賃料で住まわせた。それを知らないリシェルは、町で出会ったラバリの娘マドレーヌ(ルース・ウィルソン)に憎悪の眼差しを浴びせられる。
ドルチェ--ドイツ軍がビュシーの町に駐屯する。ブルーノ・フォン・ファルク中尉(マティアス・スーナールツ)が、アンジェリエ家に来て将校用住居とすることを宣言する。毅然とした姿勢を崩さないアンジェリエ夫人。リシュルにもドイツ兵は敵だと言い聞かせ近づかないように厳命する。だがブルーノは、貴族出身の将校らしく紳士的に2人に応対する。やがて夜ごとにブルーノが弾くピアノの旋律が流れてくる。出征前は作曲家を志していたというブルーノ。彼の留守中に部屋に入ると、「フランス組曲」と標記された楽譜が目に留まった。夫が出征してから義母にピアノを弾くことを禁じられているリシュルは、その旋律に心の和みを覚えていく。
ドイツ将校ブルーノの真摯な人柄と感性に惹かれていくリシュル。彼女の甘美な恋心を縦糸に、パリを逃れてきたユダヤ人母子、ドイツ軍将校の横暴な欲情から妻を守ろうとする小作人、アンジェリエ夫人に家を追い出されたためドイツ兵と懇ろになっても生き抜こうとする小作人の娘など、戦争を生き抜く人々の様々な心模様が中部フランスののどかな情景に相まって描かれている。押し寄せる軍隊と恭順だが静かな抵抗押し隠す民衆のしたたかさ。原作者が見据えた都会と田園、小作人と地主、銃剣による威圧と対照的なコントラストが、音楽の魔力に溶け込むラストが生きていることの余韻に浸してくれる。 【遠山清一】
監督:ソウル・ディブ 2014年/イギリス=フランス=ベルギー/英語・フランス語・ドイツ語/107分/スクリーン:シネマスコープ/原題:Suite Francaise/ 配給:ロングライド 2016年1月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー。
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