祖母マドレーヌの話しを孫のロマンは人生の宝物を受け取るかのように聞き取っていく。 (C)2013 Nolita cinema - TF1 Droits Audiovisuels - UGC Images - Les films du Monsieur - Exodus - Nolita invest
祖母マドレーヌの話しを孫のロマンは人生の宝物を受け取るかのように聞き取っていく。 (C)2013 Nolita cinema – TF1 Droits Audiovisuels – UGC Images – Les films du Monsieur – Exodus – Nolita invest

少子高齢社会の日本では、親と子どもの“老老介護”もめずらしくはない。しかも子や孫世代の住まいは遠く、介護施設への入居もままならない。それぞれの国で高齢の親と子どの世代の家族の在り方が、現実の暮らし方をとおして問われている。“個人主義の国”ともいわれるフランスから届いたこの物語は、親・子・孫の3世代家族の心のつながりを受け継いでいく思い出の大切さを想い起してくれる贈りもののよう。

【ストーリー】
深まる秋の気配に包まれたパリ・モンマルトルの墓地。マドレーヌ(アニー・コルディ)は、長年連れ添った夫の葬式を営んでいた。終わった直後、墓地を間違えた大学生の孫ロマン(マチュー・スピノジ)が駆けつけて来た。父親のミシェル(ミシェル・ブラン)は、遅刻したロマンにしかめ面だが、祖母のマドレーヌは「おじいちゃんはあなたを愛していたから怒ったりはしないわ」となだめる。
ミシェルが40年勤めた郵便局を定年退職の日を迎えた。高校教師の妻ナタリ(シャンタル・ロビー)が学校に行っている間、間の持てないミシェル。優柔不断なうえそんなミシェルに、ナタリはうんざり気味で夫婦の間に微妙な雰囲気が漂い始める。

アパルトマンで一人暮らしになったマドレーヌを、ロマンは時折り訪ねて話し相手になっている。マドレーヌは、古い写真を整理しながら自分の子ども時代や祖父との思い出を話して聞かせる。ある日、マドレーヌがケガをして病院に運ばれた。それを機にミシェルと2人の弟たちは、マドレーヌに老人ホームへの入居を勧める。マドレーヌの気持ちを汲んでロマンは反対するが、父と叔父たちの意思は固くマドレーヌも仕方なく入居に同意した。

ロマンは、知らない人ばかりの老人ホームのマドレーヌを訪ね、彼女が気に入っているという廊下に飾られた奇妙な絵をいっしょに見る。交わすおしゃべりは、絵を描いた作者の意図や感想など、時が穏やかに過ぎていく。マドレーヌの誕生日、父と叔父たちはいつもと同じレストランで食事会した。会食後、あの絵の作者の家を突き止めていたマロンは、マドレーヌといっしょに突撃訪問するサプライズを企てていた。もちろん、マドレーヌは孫の茶目っ気たっぷりの企画を愉しんだ。

ミシェルは定年退職。だが妻ナタリから思いもかけなかった離婚をほのめかされて… (C)2013 Nolita cinema - TF1 Droits Audiovisuels - UGC Images - Les films du Monsieur - Exodus - Nolita invest
ミシェルは定年退職。だが妻ナタリから思いもかけなかった離婚をほのめかされて… (C)2013 Nolita cinema – TF1 Droits Audiovisuels – UGC Images – Les films du Monsieur – Exodus – Nolita invest

マドレーヌの親しい知り合いの葬式が続く。葬式の帰り、久し振りに思い出の詰まったアパルトマンに立ち寄ったが、自分の知らないうちに部屋は売られていた。ミシェルが、マドレーヌに言いそびれていたまま売却していたのだ。数日後、老人ホームからマドレーヌが失踪したとの知らせがきた。尋ね人のチラシを出したり懸命に探すミシェルとロマン。翌日、マドレーヌからのハガキが届いた。消印はパリのサン・ラザール駅。妻から離婚話が出されているミシェルは、ますます気が動転して行先の見当もつかない。だが、マドレーヌから思い出話を聞いていたロマンには、生まれ故郷のノルマンディへ行ったかもしれないと思い浮かんだ。それを確かめにいくロマン…。

【見どころ】
悪役は誰も登場しない。事件といえば、ミシェルが妻ナタリから離婚をほのめかされて大落胆、そこにマドレーヌの失踪という程度。いわば日常の暮らしの中で人と人の心が通じ合う道程が、何ともステキな脚本に仕上がっている。

そのつながりあう人たちのステイタスは、安定しているように見えてその実、それぞれに居場所を探している不安定さが伝わってくる。大学生のロマンをそのままとしても、定年退職した父ミシェルは所在なさげに自分探し。妻のナタリも仕事の充実さと家にいるように夫の内面にそれまでの結婚生活まで揺らいでいく。ロマンを雇ったホテルのオーナーは、別の所で暮らしている自分の息子ではなくロマンに話しかけ、ワインを誘う淋しさが伝わってくる。それでも、それぞれに輝いていた日々、かつての恋にときめいた日々、だが今はその恋に何が残っているのか。

連れ添った夫を亡くしたマドレーヌが、古いアルバムをめくってはロマンに語る子ども時代の夢、夫との恋に輝き家庭をつくってきた日々の残り香を伝える古い写真。シャルル・トレネの代表的なシャンソン「残されし恋には」(原題:Que reste-t-il de nos amours)が主題歌としてこの物語に使われているのが心憎い。 【遠山清一】

監督ジャン=ポール・ルーブ 2013/フランス/フランス語/93分/映倫:G/原題:LES SOUVENIRS 配給:アルバトロス 2016年1月23日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国ロードショー。
公式サイト http://itoshikijinsei.com
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