マンハッタンの高級デパートで運命的な出会いをするキャロルとテレーズ (C)NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED
マンハッタンの高級デパートで運命的な出会いをするキャロルとテレーズ (C)NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

同性婚の法的容認など市民社会でのマイノリティに対する見識が変りつつある。だが、キリスト教界では、教派分断を招きかねない神学論争が展開されている。

1950年代のアメリカは、まだキリスト教文化が社会生活の道徳的基盤を構築していた。本作は、その時代のニューヨークを舞台に、女性同士の恋愛観と母親として生きる道を求めて苦悩する女性キャロルのアイデンティティを真摯に描いている。

原作は、『太陽がいっぱい』などで知られるパトリシア・ハイスミスの「ザ・プライス・オブ・ソルト」(別の著者名で1952年に刊行されたベストセラー小説。自著であることを明かした後’90年に「キャロル」と改題し再刊)。当時の道徳観、ファッション、ポピュラー音楽などが丁寧に再現描写されながら、アイデンティティの問いかけとして現代の問題性を追及している制作姿勢と見事な演技は見応えがある作品。

【あらすじ】
D・D・アイゼンハワーが第34代大統領選挙に当選した年のクリスマス。写真家を目指すテレーズ(ルーニー・マーラ)は、マンハッタンにあるアルバイト先の高級デパート・フランケンバーグのおもちゃ売り場で、センスの良いファッション着こなすエレガントな女性キャロル(ケイト・ブランシェット)に魅入った。テレーズの視線を感じたキャロルが近寄ってきて、娘リンディへのクリスマス・プレゼントを相談しながらいっしょに探す。キャロルが手袋を忘れて立ち去ったのに気づいたテレーズは、注文票の住所宛に手紙を添えて手袋を郵送した。

キャロルから「お礼にランチでも」と誘われ、レストランで語り合う二人。キャロルは、愛のない結婚生活を送っていたが離婚する話が進んでいるという。その週末、キャロルは屋敷にテレーズを招待した。レコードを聞き語り合っているとき、突然、別居中の夫ハージ(カイル・チャンドラー)が、娘リンディを迎えに来た。イヴに迎えに来る約束を勝手に早めてきたため口論になる。仕方なく娘を送り出すキャロルだが、ついテレーズに八つ当たりして悲しませてしまう。その夜、キャロルから謝罪の電話を受けたテレーズ。二人はしだいに打ち解けあっていく。

(C)NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED
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ハージは別れたくないが、キャロルの離婚の意思は固い。キャロルは弁護士に呼び出されると、一度は合意していたリンディの共同親権を反故にして単独親権への変更を申し立ててきたという。理由は、キャロルが親友アビー(サラ・ポールソン)と親友以上に親密な関係にあったこととテレーズとの関係の疑わしさなど挙げ、母親の資格に欠けておりハージの元に戻らなければリンディとは会わせないという。

審問の日までリンディとの面会が禁じられたキャロル。テレーズと距離を置こうとするが、苦しい日々。社会的に非難される理由で母親としての人生が断たれようとしている苦しみ。キャロルは、まず一つの決断をして現実へと一歩を踏み出す…。

【見どころ・エピソード】
親友アビーとは別れた経験、結婚生活に耐えられず離婚を決意しているキャロル。年上のキャロルに憧れ以上の感情を抱いていくテレーズも、ボーイフレンドのリチャード(ジェイク・レイシー)から幾度もプロポーズされているが受け入れられないでいる。キャロルとテレーズの進展を冷静に見守り助力も惜しまないアビー。登場場面は少ないが、嫉妬しないアビーとキャロルの関係は、人間の成熟さが滲み出ていて熱く伝わってきます。

ハイソサエティのキャロルのファッションが、清楚なテレーズのファッションやアイテムとともにエレガントで魅力的。音楽も愉しめます。テレーズがテデイ・ウィルソン楽団とビリー・ホリディの”Easy Living”のレコードをプレゼントするシーンやThe Cloversの “One Mint Julep”、ジョー・スタッフォードの”No Other Love”(「別れの曲」のメロディ)など50年代の香り立つ演出がなんとも粋ないい味を醸し出しています。50年代を満喫できる映画でもあります。 【遠山清一】

監督:トッド・ヘインズ 2015年/イギリス=アメリカ/118分/DCP/原題:Carol 配給:ファントム・フィルム 2016年2月11日(木・祝)よりTOHOシネマズみゆき座ほか全国ロードショー。
公式サイト http://carol-movie.com
Facebook https://www.facebook.com/キャロル-CAROL-505334499635463/

*AWARD* 2015年:第68回カンヌ国際映画祭主演女優賞(ルーニー・マーラ)・クィア・パルム賞受賞。シカゴ国際映画祭ゴールド・Q・ヒューゴ賞受賞作品。 2016年:第88回アカデミー賞主演女優賞(ケイト・ブランシェット)・助演女優賞(ルーニー・マーラ)・脚色賞(フィリス・ナジー)ノミネート。