姪のマリアとニックの交際を祝福するエスコバル(右)だが (C)2014 Chapter 2 - Orange Studio - Pathe Production - Norsean Plus S.L - Paradise Lost Film A.I.E - Nexus Factory - Umedia - Jouror Developpement
姪のマリアとニックの交際を祝福するエスコバル(右)だが (C)2014 Chapter 2 – Orange Studio – Pathe Production – Norsean Plus S.L – Paradise Lost Film A.I.E – Nexus Factory – Umedia – Jouror Developpement

南米コロンビアに実在した麻薬王パブロ・エスコバル(1949年12月1日~93年12月2日)の半生をモデルに、抑圧され貧しい暮らしの民衆からは惜しみなく慈善を施す英雄と崇められ、一方では欧米へのコカイン密輸市場を席巻し抗争と秘密保持のためには大量殺人も辞さない極悪非道な男。彼の内面性をファミリーに引き込まれたカナダ青年の目をとおして描いていく。大罪を犯しながら小さな国家規模の常人には為しえない桁違いの善行と悪行。神の存在を認め善をしりつつも、神に抗い罪を自覚して生きる姿は、人間の失楽園の様相を思わせる。

【あらすじ】
カナダからコロンビアに移住してきたサーファーのニック(ジョシュ・ハッチャーソン)は、兄ディラン(ブラディ・コーベット)の家族が始めた小さな店を手伝いながらサーフインを教えている。近くの町では診療所が建設されている。ニックは、その建築作業を手伝っているボランティアのマリア(クラウディア・トライサック)に一目ぼれし、交際にこぎつけた。

州議会議員のパブロ・エスコバル(ベニチオ・デル・トロ)が、善事業で建てた診療所が完成した。パブロは、マリアの叔父だった。マリアから恋人として話を聞いていたパブロは、州都メデジン郊外の邸宅へファミリーの一員のようにニックを温かく迎えいれた。
大豪邸に大勢の使用人、敷地には私設の動物園もある。あまりの豪華さにパブロの事業をマリアに訪ねると、「コカイン。この国の人は昔からコカの葉を愛用してきた。特産品を売っているだけよ」とニックに答える。だが、マリアが、慈善家の叔父して尊敬しているパブロには、彼女の知らない闇の世界の実力者としての姿があった。

家族を愛し、組織の結束は固い。だが、貧しい民衆への慈善で絶大な支持を獲得している一方で、強大な犯罪組織“メデジンカルテル”による暴虐さと秘密を守るための残忍な掟にニックも次第に引き込まれていく。そんな折り、かつてパブロがアメリカで麻薬密売による逮捕された履歴が露呈し議員資格を剥奪する騒動が起きた。

民衆はエスコバルの慈善事業に歓喜する (C)2014 Chapter 2 - Orange Studio - Pathe Production - Norsean Plus S.L - Paradise Lost Film A.I.E - Nexus Factory - Umedia - Jouror Developpement
民衆はエスコバルの慈善事業に歓喜する (C)2014 Chapter 2 – Orange Studio – Pathe Production – Norsean Plus S.L – Paradise Lost Film A.I.E – Nexus Factory – Umedia – Jouror Developpement

これを契機に、パブロは私設軍隊によって政府との抗争を展開する。パブロから財産を分散して隠す仕事を任されたニック。だが、隠した後は道案内した男を殺せと命じられる。命令に背けば自分が殺される。だが、そんな殺人はできない。良心の呵責に苦悩するニック。残虐な暴力の輪がニックを追い詰めていく。

【見どころ・エピソード】
“南米のゴッドファーザー”と称されたエスコバル。彼は、自らをロビン・フッドになぞらえて植民地時代からの支配者階級による富の圧迫から民衆を解放する活動や慈善事業を幅広く行った。その民衆の彼に対する支持と崇拝の凄まじさは、本作でもいくつかのシーンで描写されている。一方で、暴力と残忍性によるカルテル勢力の保持と暗殺事件なども史実を織り込んで展開されている。

裏社会カルテルがテーマだが、暴力シーンは最小限度に抑えられている。ステファノ監督の意図は、エスコバルのファミリーに引き込まれ、気づいた時には抜け出せなくなったニックの目をとおして、エスコバルの内面性を描写するところに置かれているようだ。

政府との抗争を終結させるため刑務所に収監されるとき、神父に語るエスコバルの言葉には、永遠の死をもたらす人間の原罪を贖うキリストの存在感はなく、現世での天国と地獄だけを見つめている。 【遠山清一】

監督:アンドレア・ディ・ステファノ 2015年/フランス=スペイン=ベルギー=パナマ/スペイン語・英語/119分/原題:Escobar: Paradise Lost 配給:トランスフォーマー 2016年3月12日(土)よりシネマサンシャイン池袋ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.movie-escobar.com
Facebook https://www.facebook.com/MovieEscobar/