時折り、関口さん(左)宅で食事やお風呂をいただいていた岩崎さん。何を思ってか関口さんに絶交宣言した… (C)JyaJya Films、だいふく
時折り、関口さん(左)宅で食事やお風呂をいただいていた岩崎さん。何を思ってか関口さんに絶交宣言した… (C)JyaJya Films、だいふく

公営団地での“独居生活”“孤独死”“老いをどう生きる”…重いテーマを正面から質問している。応じるお年寄りお一人ひとりの表情の自然なこと。なんとも清々しく可笑しくもある後味良いドキュメンタリーだ。インタビューに答える言葉に表現された奥に含まれたものが、日々の暮らしの行為となって記録されていく。田中圭監督初の劇場公開作品。お年寄り世代に寄り添って撮っている、その温いその空気感がいい。

【あらすじ】
神奈川県川崎市にある市営団地。東京・川崎へのベッドタウンとして1973年に建設された。現在は、およそ350世帯が入居しており住民の7割が高齢者で独り暮らしが多い。団地内にある大きな桜の樹。関口ことじさん(79歳)さんが歩いてきて、笑顔で「お茶でも」と部屋へ招いてくれる。2002年(平成14)に夫が他界し、インコのターチャンとの“2人暮らし”。にこやかな笑顔と面倒見の良さで知られるステキなおばあちゃん。亡夫のことや生い立ちを語り聞かせてくれる。

関口さんと同じ棟に住んでいる大庭忠義さん(65歳)。建築の仕事をしていたが50歳を過ぎてから視力が急激に低下し、仕事を続けられなくなり、市役所に相談しこの団地に入居した。お話好きの大庭さんは、週2回訪問介護に来るヘルパーさんとの世間話が何よりの楽しみ。

団地自治会の副会長を務める川名俊一さん(72歳)は、大庭さんと同じ棟に住んでいる。新聞配達とお弁当配達の仕事をしていたが、転倒して足を骨折してすべて仕事は辞めた。気落ちしているだろうと気遣ったかつての演劇仲間たちが、快気祝いに来てくれた。そこで仲間たちからもう一度脚本を書かないかと持ち上げられ、筆を執り始める。

時折り、関口さん(左)宅で食事やお風呂をいただいていた岩崎さん。何を思ってか関口さんに絶交宣言した… (C)JyaJya Films、だいふく
時折り、関口さん(左)宅で食事やお風呂をいただいていた岩崎さん。何を思ってか関口さんに絶交宣言した… (C)JyaJya Films、だいふく

廃棄置き場にあった洗濯機を自力で自宅まで運び込む岩崎びばりさん(71歳)。物を集めては捨てられず、自宅はゴミ屋敷状態だ。さすがに「異臭がする」「蛆がわいてきた」など隣近所から厳しいクレームの嵐。そんな岩崎さん宅を関口さんが訪ねて来て、なかなか進まないゴミの片づけを手伝う。それだけではない。岩崎さんは、時折り関口さん宅でご飯をごちそうになり、うたた寝したりお風呂までいただいている。そんな親切にしてくれる関口さんのいるこの団地を離れたくないと言っていた岩崎さんだが、何を思ってか「来年からは一人で生きていきます」と、関口さんに絶交宣言した…。

【みどころ・エピソード】
団地内を映し出すシーンは、人も少なく静かだ。働き盛りが多く入居していた昭和の風景とは明らかに異なる。だが、田中監督に語っている一人ひとりの立ち居振る舞いは、戦争を通って来た肚の坐り方、“金の卵”などともてはやされて上京してきたような、昭和が息づいている。いまは親族と疎遠になった暮らし…、病気を持っていても塞ぎ込んだりせず献体することも決めて生きることを愉しむ…。、「早くお迎えに来てほしい」とは、独り暮らしのお年寄りからよく聞く言葉だが、その言葉の奥にある今を生きているバイタリティに触れてほしい。「古いレコードしかない」という岩崎さん、片付けしながらくちづさむ和製リズム“ドドンパ”歌謡「若いふたり」(歌:君原健二)が、懐かしくもあり耳に残る。 【遠山清一】

監督:田中圭 2015年/日本/91分/英題:Under the Cherry Tree 配給:JyaJya Films 2016年4月2日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.sakuranokinoshita.com
Facebok https://www.facebook.com/sakuranokinoshita/

*Award*
2015年:山形国際ドキュメンタリー映画祭2015日本プログラム正式出品作品。