映画「ルーム ROOM」--リアルに迫る長期監禁生活の恐怖と解放後
本作品が公開される2週間ほど前、2年前に朝霞市で誘拐された中学生少女が自力で監禁されていたアパートを脱出し警察に保護され、後日、容疑者が逮捕されたというニュースが報道された。実際に起きた事件が、本作に強いインパクトをもたらせている。本作は、19歳の時に誘拐された女性が、誘拐犯の息子を産み7年間も一つの部屋に監禁されていた物語。脱出した後、母子に注がれる世間の目と心のケア。たんなる物語を超えて、母子の葛藤に心動かされラストシーンに感動する。
【あらすじ】
壁に窓はなく、天窓一つとドアだけでが外とつながっている部屋。5歳になった朝、目を覚ましたジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)は、いつものように電気スタンドやベッド、洗面台などに「おはよう」とあいさつをする。ママ(ブリー・ラーソン)が誕生日のケーキを焼いてくれた。だが、読み聞かせしてくれた物語のような、ローソクはなかった。
ジャックは、夜になると洋服ダンスのなかで寝る。時折り夜中に、ママがオールド・ニック(ショーン・ブリジャース)と呼ぶ男が部屋にやって来るからだ。オールド・ニックは、服や食料などを置いていくが
ままの言いつけを守ってジャックは洋服ダンスから出ない。この日は、ママが「もっと栄養のあるものを」と文句を言っていた。だが、オールド・ニックは「半年前から失業して、これでも大変なんだ」と言って逆上した。そして部屋の電気を切られた。
ママは、ジャックにすべてを話す決心をした。この部屋で生まれ、この部屋が全世界だと信じているジャックに、ママの名前はジョイであること、この部屋に7年間閉じ込められていること、この部屋の外には本物の広い世界があること…。この部屋のなかが本物であり外はイメージの世界であったジャックには、すぐには理解できい。だが、ママのジョイは、この部屋からジャックを脱出させることを決意する。
ジョイの計画通り、ジャックに死んだふりをさせオールド・ニックに部屋から運び出させた。ジャックの逃亡に気づいたオールド・ニックに危うく捕まりそうになったが、町の人の機転で警察の保護された。あとはママのジョイの居場所をなんとかして警官に教えなければ…。
【みどころ・エピソード】
拉致監禁されていた部屋からの脱出とママの救出いうスリルで十分に映画の醍醐味を味わえる。さらには、ジョイが救出され、母子の心のケアの大変さがリアルに描かれている後半のストーリーこそ描きたかった本題ではないかと思わせられる。ジョイが誘拐された後、両親は離婚していて、母親は新しいパートナーと生活していることを知ったショック。マスコミや世間の目にさらされた心の葛藤。他者はママしか知らなかった息子のジャックは、どことなく立ち居振る舞いは女の子ぽい。自分が男の子であることをどう理解し受け入れて行けるのか…。そうしたトラウマになる要素と課題がリアルに描かれていく。そのリアルさは、前述した朝霞少女誘拐事件の被害者のこれからを深く思わされる。
ジョイ役のブリー・ラーソンが、本作で26歳にしてアカデミー賞主演女優賞に初ノミネートされ、26歳にして初受賞した。3度目の受賞がかかっていたケイト・ブランシェット、昨年に続き連覇のかかっていたジェニファー・ローレンスらを抑えての受賞なだけに、本作のスリル感そして感動に納得できることでしょう。 【遠山清一】
監督:レニー・アブラハムソン 2015年/アイルランド=カナダ/118分/原題:Room/ 配給:ギャガ 2016年4月8日(金)よりTOHOシネマズ新宿、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開。
公式サイト http://gaga.ne.jp/room/
Facebook https://www.facebook.com/gagajapan
*AWARD*
2016年:第73回 ゴールデングローブ賞[ドラマ部門]最優秀主演女優賞受賞(ブリー・ラーソン)・最優秀脚本賞受賞。第22回全米映画俳優組合賞主演女優賞受賞。第88回 アカデミー賞主演女優賞受賞(ブリー・ラーソン)作品賞、監督賞・脚色賞ノミネート作品。 2015年:トロント国際映画賞観客賞受賞。バンクーバー国際映画祭最優秀カナダ映画賞ほか多数。