映画「レンタル・ファミリー」――孤独感、人間関係の希薄化を描いた「嘘と真実」の境界線

レンタル契約のフィリップ(右)を本当の父親と信じて心を開いていく美亜。
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 長編映画デビュー作「37セカンズ」で第69回ベルリン国際映画祭パノラマ部門観客賞とCICAEアートシネマ賞を受賞したHIKARI監督が、映画「ザ・ホエール」で、余命わずかな体重272キロの孤独な男の物語を演じて2023年に第95回アカデミー賞主演男優賞を受賞したブレンダン・フレイザーを主役に迎えての最新作「レンタル・ファミリー」。本作では、日本独特の代行サービス産業を題材に現代社会の孤独、人間関係の希薄化そして「嘘と真実」の境界線を描いている。

孤独な現代人に寄り添う
コミカルで温かな人間ドラマ

 主人公のフィリップ・ヴァンダープルーグ(ブレンダン・フレイザー)は、歯磨き粉CMでのメインキャラクター役が当たり、東京暮らしが7年になるアメリカ人俳優。だが、今は落ちぶれて自分自身を見失いかけている。ある日、彼は代行業者レンタル・ファミリー社の多田信二社長(平 岳大)から「白人の男性を求めている」とスカウトされる。同社スタッフの中島愛子(山本真理)と光太(木村 文)らにも持ち上げられ、気の優しいフィリップは働くことに同意し、フルタイムの仕事を得た。引きこもり男性とPCゲームの対戦相手、海外移住する目的で両親を納得する女性の結婚相手に成りすまして挙式までする。

 依頼人が望む設定に応じて家族、友人、時には謝罪の代行も演じる。認知症の症状が出始めた大物俳優・長谷川喜久雄(柄本 明)の娘・雅美(真飛聖)は、父親に自信を回復させたいと外国誌の記者役にフィリップと契約しインタビュー取材を設定する。老俳優は、フィリップと意気投合し、娘に内緒の旅行計画の同伴を依頼する。また、シングルマザーの川崎瞳(篠﨑しの)は娘・美亜(ゴーマン・シャノン・眞陽)に有名私立中学校の受験面接を受けためフィリップを父親役に雇う。初対面の日、父親に捨てられたと思っていた美亜は、瞳から突然紹介されたフィリップに強く反発する。だが、辛抱強く寄り添い感情豊かに接するフィリップに心を開いていく。フィリップは老俳優と美亜に信頼されるほど彼らの人生に深くかかわることで、演じることと現実の境界線が曖昧になっていく…。

「優しい嘘」に潜む危険性

 主演のブレンダン・フレイザー、老俳優役には名優の域に在るベテランの柄本明、美亜役のゴーマン・シャノン・眞陽は映画初出演とは思えないパフォーマンスで、三者の存在感は印象深く引き寄せられていく。HIKARI監督のスタイリッシュな演出とストーリー展開は、みごとに現代の孤独社会での疑似家族として機能し、関係性の外部委託という現象を文化的に映し出していて、観る者に「現代社会の不安と希望」を興味深く考えさせることに成功している。

 カウンセラーとクライアントの関係性が明確な欧米では、「レンタル友人」とか「エスコートサービス」のような形態はあっても、疑似家族や疑似恋愛を演じるような日本のレンタル家族という代行サービス産業をほとんど見られない。だが、本作への関心は高い。25年11月に米国で劇場公開後の観客調査では、全体の9割を超える観客がポジティブな感想を寄せていて、その過半数が「最高だった」と回答。そうした高い関心の背景には、本作が日本でオールロケ撮影で、欧米の環境問題やエコロジーへの関心が高まるなか、老俳優がフィリップに「自然のすべてに魂が宿る」と語るアニミズム的な感覚が、持続可能な生き方や自然との調和を考えるうえで魅力的に映るようだ。

 だが、孤独な人々を慰めるための「優しい嘘」を、ある種の人道的救済として観ることは本質的な危険性を持つ。それは、神の像としての人間の尊厳を冒涜することにつながり、現実の中で生きる権利を奪う行為とも解釈しうるのではないだろうか。【遠山清一】

監督・共同脚本:HIKARI 2025年/110分/アメリカ・日本/日本語・英語/原題:Rental Family/ 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン 2026年2月27日[金]より全国公開。
公式サイト https://www.searchlightpictures.jp/movies/rentalfamily

*AWARD*
2025年:第50回トロント国際映画祭ワールド・プレミア上映作品。第38回東京国際映画祭ガラ・セレクション出品作品。