新刊『「同性愛」二つの見解 聖書解釈をめぐる対論』の朝岡勝氏による書評の4回目。
前回
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本書のテーマと直接つながるわけではありませんが、教会の誤った権威主義、カルト化や各種ハラスメントの温床となりうるものゆえに、教会全体の意識改革は喫緊の課題です。たとえば「壮年」、「婦人」、「青年」、「子ども」という区分、教会員の男女別統計の是非などはオープンに議論されてよいテーマとも思います。
牧会的視点の重要性
第六に「牧会的視点の重要性」です。自らゲイであることをカミングアウトしつつ「伝統」を重んじるウェスレー・ヒルの「霊的友情」の主張や、同じく「伝統派」のスティーブン・ホームズが結論で示す「牧会的便宜」の主張は重要であり、それらが実現可能かの具体的検討とともに、そもそも「牧会」概念の内実を問う作業を繰り返す必要があるでしょう。牧会的な「便宜」や「配慮」のつもりが実際には善意に基づく偏見や誤解を正すことなく、かえって増幅させる恐れがあることや、当事者性を無視・排除したかたちで教会の自己満足に着地するような事態は避けなければなりません。
評者がかつて自らの性的指向について悩むクリスチャン家庭の若者から聞いた言葉は忘れられません。彼女は言いました。「一番話したい相手、一番理解してほしい相手が、一番話せない相手、一番理解してもらえない相手だ」と。「それは誰?」と尋ねた私への答えは「牧師と親」でした。
罪赦された罪人であるお互いを主イエスのまなざしに促されつつ見つめること、キリストの贖いによって義とされ、聖とされ、神の子どもとしてキリストに結び合わされ、聖化から栄化に向かう途上にある一人の人として見つめることは、信仰の個人化や主観化ましてや神なき人間主義化に陥ることを阻みます。そして神の国の完成と成就の約束のもと、神のかたちなるキリストに向かって「なるであろう姿」として一人の存在を徹底して見つめる深い牧会的視点を与えるものでしょう。
とりわけ説教者はこの作業を日々の説教黙想の中で繰り返していますが、その黙想する会衆の中に「同性愛者」の方々が肩身を狭くしながら、自分の存在の有り様と周囲のまなざしとの間で葛藤しながら、恐れを抱きつつ息を潜めるようにじっとしている現実を忘れてならないと思うのです。
異なる立場の対話
第七に「異なる立場こその対話の可能性」。異なる神学的立場の間で建設的かつ生産的な議論が実現できる場を積極的に作っていく責任があるでしょう、、、、、
(2025年05月11・18日号 11面掲載記事)
