【映画】「ぼくの名前は ラワン」――難民としてイギリスに渡ったろう少年家族の成長描く

(C)Lawand Film Limited MMXXII, Pulse Films, ESC Studios, The British Film Institute

 生まれつき耳の聞こえないクルド人のろう(聾)少年ラワンは、言葉を持たず孤立していた。イスラム教徒の両親と家族は聴者で、イラクでは教育や支援の機会がほとんどなく、学校でもいじめや孤立に苦しむラワンの将来を憂え難民として父親は他国への移住を決意。どうにか一家はイギリスのダービーにたどり着き、ラワンが手話言語と自身の存在を受け入れてくれる居場所(ホーム)を得ていくドキュメンタリー。

 ラワン少年が抱えているハンディキャップは厳しいが「新しい名前」「新しい居場所」、くじけずに何度もチャレンジする「希望の物語」は、新年のはじまりにふさわしい作品として大きな示唆を与えてくれる。

今は分かる。世界は変えられる
自分の居場所を見つけられる。

 ラワンが5歳のとき、一家はイラクを出国した。途中、フランス・ダンケルク近郊の仮設難民キャンプで約一年におよぶ過酷な生活を経験する。だが、そこで出会ったろう者の男性ボランティアがラワンに初めて本格的にイギリス手話(BSL)を教え、イギリスのダービーにある王立ろう学校入学への道を開いた。

 学校では人生の転機を導いたもう一人の大人、女性教師ソフィアと出会った。彼女もろう者で幼い時は孤独だった。彼女は、片言のイギリス手話を知るまで「僕はいつもよそ者のように感じていた」ラワンにホームを自分の居場所と教え、ドラムスに風船を押し当てたり少し離して音の波動を実感させることを手始めに、ラワンのアイデンティティーを育んでいく。難民ボートでの苦痛と恐怖になぜ襲われるのか分からなかったラワンだが、「今なら分かる。世界は変えられる、自分の居場所を見つけられる」ためだったという。

 周囲が自分を「ラワン」と認識し名前で呼ばれる喜びを知り、学校のクラスに友人ができ、地域のろうコミュニティの人たちとのかかわりが広がる。手話という言葉を得て自らの考えを発する声を持ったラワンは、みんな同じではないマイノリティであることを理解し、信念を持ってイギリス手話を選び取る。両親は口話習得を勧めるが、ラワンの兄は成長するラワンの友人になる決心をして一緒にイギリス手話の学習を始めた。

 イギリスに難民申請をして7年。家族、学校、地域のろうコミュニティーの人たちに応援され、何度目かの認定調査を受けてきた結果発表が迫ってきた…。

ことばを得て人格を
形成していくラワン

 ラワンは、手話という「ことば」を得ることで、世界と自分を理解し、人との関係に入っていく。そのプロセスは「ことば」が人を世界へと開き、人格を形づくりラワンの秘められていたタラントが顕される。ラワンが学ぶろう学校には、ラワンのような複雑で重層的な苦難を生きてきた生徒はいなかった。そのような少年の「居場所(ホーム)」として受け入れ見守る学校や地域コミュニティーの接し方は、教会のディアコニアを想うとき、「もっとも小さい者」の尊厳とニーズにどう向き合うかを具体的に問い掛けている作品でもある。

 2019年にラワンと家族をダービーに訪ねたラブレース監督は、ラワンとコミュニケーションするために自らも手話を学び、映像と音響で「聴こえない世界」を感覚的に表現している。そこから編み出された演出は「見る・聴くとは何か」という霊性の問題にもつながり、信仰的な鑑賞にも深みを与えている。【遠山清一】

監督:エドワード・ラブレース 2022年/90分/イギリス/クルド語・英語・イギリス手話(BSL)/ドキュメンタリー/映倫:G/原題:Name Me Lawand 配給:スターキャットアルバトロス・フィルム 2026年1月9日[金]より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
公式サイト https://lawand-film.com
X/twitter https://x.com/AlbatrosDrama

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