ユダヤ

１８５８年６月23日の夜。教皇領（ローマ教皇あるいはローマ教皇庁が支配していた領土）ボローニャの町に住むユダヤ人商人サロモーネ・モルターラ［通称モモロ］とマリアンナ夫妻宅に教皇領保安警察のルチーディ准尉が警官たちを伴い訪ねてきた。用件は家族構成と本人確認をするという。 ６番目の子エドガルドの顔と年齢（６歳）を確認するとルチーディ准尉は、エドガルドが何者かによって（カトリックの）洗礼を受けているため連れてくるよう命じられている、と両親に宣告する。モモロ夫妻はじめ異変を知って集まってきた親戚や知人たちは、准尉の宣告に驚愕（きょうがく）する。いつ誰が何のために、誰も気づかないうちにエドガルドに洗礼を授けたのか。洗礼を受けたユダヤ人の子は、教会法によってキリスト教徒として育てられる。モモロとユダヤ人コミュニティーの代表は、准尉に命じた異端審問官フェレッティ神父の所へ行き執行の延期を願い出るのだが…。 ベロッキオ監督は、この事件を詳細に著わしたデヴィッド・Ｉ・カーツァーの『エドガルド・モルターラ誘拐事件少年の数奇な運命とイタリア統一』（邦訳書名、早川書房刊、２０１８年）を元に、被害者エドガルドと家族の苦しみにフォーカスを当てながら、当時の欧州社会に広がったユダヤ人コミュニティーの強固な反応と王政国家から近代国家が誕生する激動の中で衰勢する教皇領と教皇ピウス九世の姿を自由な発想と素晴らしい映像美で演出している。 後半はボローニャ市民が蜂起し教皇領から町が解放されると、モモロは息子を取り戻そうとフェレッティ神父を被告に裁判を起こす。一方、イタリアが統一されていく戦いのなかで死を迎えつつある教皇、司祭として息子として家族に改宗を説き続けるエドガルド。監督の演出は、公権力により誘拐されたエドガルドを自由を得てなお、家族の元に戻ろうとしない合理性を失った被害者像として描いているかのようだ。だがエドガルドは、洗礼を受け祭司になって生き続けているのは自分の自由意思からだと家族にも告白している。日本ではいま宗教二世問題などから宗教を信仰する自由へも行政の指導・介入が起こりつつある。本作は、そうした信仰の自由を信仰者に改めて問いかけているようにも思う。【遠山清一】 監督：マルコ・ベロッキオ 2023年/134分/イタリア＝フランス＝ドイツ/原題：Rapito、英題：Kidnapped 配給：ファインフィルムズ 4月26日よりYEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにてロードショー。URL https://mortara-movie.com ©IBC MOVIE / KAVAC FILM / AD VITAM PRODUCTIO N / MATCH FACTORY PRODUCTIONS (2023)

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隔ての壁を越えた砂漠のキャンプ　パレスチナ人とユダヤ人の信者が生活を共にし、語り祈り合う

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