2025年10月7日

「戦争」と「天皇」について、古代オリエント研究の知見と、アジアの研究者との交流から見えた課題が語られた。日本福音同盟社会委員会は、戦後80年連続オンライン講演会を10月3日に開催した。 旧約聖書学者の津村俊夫氏（聖書神学舎・聖書学研究所所長）が「戦後80年－二度の大嘗祭を経た日本における宣教－」と題して語った。 前半では「戦争」について、アジアの人々との出会いを通じて知った加害の歴史について話した。今年の戦後80年報道を振り返り、「日本が被害者だという視点が目立った。加害の責任を忘れないでいたい。なにより、事実を知るべき。そうでないと何を謝るべきかわからない」と述べた。 米国留学時は、10歳以上年上の韓国の留学生が、植民支配を一言もいわず、ただ親切に声掛けをして、食事に招いて、学びを励ましてくれた。後に歴史を知ることで、そのことの重みを知ることになった。 （次ページで、アジアの研究者との交流からの気づき、大嘗祭、天皇制と古代オリエントの宗教との比較、聖書的な神理解、などについて、約1100字） 韓国で参加した学会の会場は、神社参拝に抵抗して閉じた歴史をもつ、崇実大学だった。このとき独立記念館の展示を見た。英国留学時代に出会った中国人研究者に招かれて講義した北京では、盧溝橋に行き、中国人民抗日戦争記念館の展示を見た。ある学会の夜語り合った中国の旧友は、妻の母が日本軍に襲われ、一緒にいた妹がレイプされ、銃剣で殺されたことを目撃したと、涙ながらに語った。香港での特別講義で、戦争責任にふれ謝罪をして始めると、感謝の言葉をかけられた。「若い世代はもう戦争のことは直接知らないと思ったが、祖父母から体験を聞いている。被害受けた側の傷は簡単に消えるものではない」と実感した。 後半では「天皇」に関して、大嘗祭を中心に語った。「大嘗祭は、天皇が神になる儀式であり、女神アマテラスと『ご一体』となる儀式があるという。これは実際に一体の儀式があるのか、象徴的なことなのかは不明だが、聖婚儀礼が起源としてあったのではないかと言われている。古代オリエントにも似たようなパターンがある」と言う。「大嘗祭も秘儀だが、日常の皇室儀礼も宗教的であるが国民の目からはあまり見えない」とも指摘した。 特に一神教と多神教の問題を取り上げた。「単数か複数かという単純な問題ではない」と言う。「日本では八百万の神を『神々』とはいわず、単に『神さま』と集合的に表現する。これは『ご先祖さま』も同様」と述べた。古代オリエント、カナンのウガリト文献では、王家の先祖崇拝のリストがある。先祖神（イルイプ［ilib］）に続いてエル神（il）が挙がっている。「ilは固有名詞と考えられてきたが、近年の考察で、複数形の集合名詞である可能性が出てきた」と述べ、日本の集合的な「神」との類似を指摘した。 最後に天皇制の問題をまとめて、こう勧めた。「天皇個人への尊敬と、宗教としての天皇制は分けて考えたい。宗教としての天皇制は、信教の自由と衝突する。大嘗祭では人間が神になるが、イエス・キリストの受肉は、神が人間になる。『神さま』と言うときに聖書の神と神道の神さまは、中身、指示対象が異なる。しかしクリスチャンも聖書を学んでいないと、神道の神と混同してしまう。『何となく神さま』の信仰ではなく、三位一体の神を確信し、宣教したい」 質疑応答の中では、地域の神社行事とのかかわりや、オリエント研究に従事した皇族の三笠宮について話題になった。集合的多神教と三位一体について、津村氏は補足し、「三位一体は、三神論でも、ユニテリアンでもない。人間の知能では説明しきれない。『父、子、聖霊なる神』を『みこころ、みことば、みわざの神』と表現すれば、分離できないが厳然と違いがあることは、説明はできる。しかし論理的な説明だけではなく、そこにいのちがある（ヨハネ1・４参照）ということが、重要」と語った。 関連記事 https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-zqb10uxanuejy9hp/ https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-05c4muyqp8bhwu6t/

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「何となく」の神理解では、多神教と混同する 津村氏

「何となく」の神理解では、多神教と混同する　津村氏