自分の子どもに伝えておきたいことは、一つ二つは必ずあるものだ。私にもいくつかある。その一つが「本代はケチるな」。読みたい本があれば買え。積ん読(つんどく)だろうが構わない。手もとに置け。私自身が自由に本を買うことを正当化するために子どもに言っているに過ぎないのだろうが、私は本当にそう思って、実践してきている。さらに、物語はドラマやマンガに任せて(私はドラオタ[ドラマおたく]気味である)、ノンフィクションばかりを読んでいる。趣味と実益を兼ねている場合もある(授業の準備のためであったりする)。でも、単純に楽しんでいる。
多読家でも、活字中毒でもない私だが、依頼を受けたので、私が読んだノンフィクションから「これは」と思ったものをみなさまにご紹介したい。毒もあるし、薬もあるし、毒にも薬にもならないものもある。全く期待しないでほしい。

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最初は内田樹である。内田は、私と同じ神戸在住で、1950年生まれ。ミッションスクールの神戸女学院大学の名誉教授、専門はフランス現代思想と武道論。ユダヤ人哲学者レヴィナスの専門家であり、合気道の道場を開いている。大学を60歳で早期退職したあと、毎年、共著も含めて十冊以上、出版している。私も60冊近く所蔵している。私の〝推し〟だ。とはいえ、一度も会ったことはないし(僕の友人の牧師は対談した)、彼の道場に行ったこともない(行ってみたいとは思うが)。
『武道的思考』を読んだのは2010年の11月のことであった。剣の抜き方納め方の稽古についての一節に衝撃を受けた。剣の稽古の課題は、「刃筋が通る」とはどういうことを実感することであると言う。稽古を通して剣固有の動線に気がつき、それを妨げないようにからだを動かすことを知るのだ。そのために、武道で使う剣の立場を尊重し、自分のからだの筋肉や関節や腱(けん)や靱帯(じんたい)の立場を尊重する。こうして、自分が主体となって剣や自分のからだを操作する、のではないことに気がつく(43頁)。
からだの訓練というのは、自分が思うように自分のからだを動かせるようになること、とばかり思っていた。内田によると、それは全く逆である。自分が手にしている何かや自分のからだに最もふさわしい動きを訓練によって体得する。こうして、剣という木でできた道具が自分のからだの一部分と感じ取ることができる。そして、私とその道具の複合体が、動きたいように動く。訓練とは、このような方法で「身体の文法を書き替える」ことだ。それができるようになると、他のどのようなものとでも、融け合って、自在に動くことができる(69~70頁)。「身体の文法を書き替える」ために型を学び、そのために幾度も訓練する。
内田は、『武道的思考』から10年後に出版した『武道論』において、剣とは「手の延長として便利に使える刃物のことではない」と断言している。人が剣を扱うのではなく、剣が人を「あるべきかたちへと導く」のだ。そして、訓練がからだを整え、からだはまとまり、自分だけではできないことが剣を手にしたときにできるようになる。こうなると人はもはや剣を制御する主体ではない。大きな力、野生の力の通り道である。だから、合気道を含めて武道は、得体の知れない大きな力の良導体へと整える(69~70頁)。
武道における主客の逆転。私がからだを、私が剣を動かすのではない。からだが、そして剣が動きやすいように私は気を遣っていく。それが型を学ぶという訓練である。内田の武道論、身体に関する思想は、04年から減量のためにとウォーキングに取り組み、14年からはからだのメンテナンスのために整骨院に通うようになった私に響くものであった。
それとともに、内田の思想はキリスト者の歩みにも大きな示唆を与える。というのは「肉に従わず御霊に従って歩む」(ローマ8・4)とか「キリストが私のうちに生きておられる」(ガラテヤ2・20)の意義がなんとなく分かったような気がしたからだ。義と認められたキリスト者に、長い、継続的な訓練が必要な理由はここにある。キリストや聖霊の立場を尊重して、自分のからだを動かす。これまでは「罪」によって書き込まれていた身体の文法を、少しづつでもキリストと聖霊の与えてくれた別の身体の文法に書きなおしていく。そして、聖霊に従って歩みつづけるとき、人はより健全に人となっていき、その人を通して神の力という想定外の力がこの世界で発揮されるようになる。
私は、ミッションスクールでユダヤ人哲学者と共に考えた内田にキリスト教神学を見出した。
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