【経歴とコメント】美術と社会福祉をけん引 キリスト教功労賞 松岡氏、岸川氏

キリスト教の美術、社会福祉をそれぞれけん引してきた松岡裕子氏(美術家)、岸川洋治氏(横須賀基督教社会館理事長)が「第56回キリスト教功労者」に選ばれた(顕彰式10月27日、日本基督教団銀座教会)。それぞれの経歴と共に、顕彰者、関係者のコメントの概要を伝える。

松岡氏、岸川氏

 同顕彰は「キリスト教文化に関わる教育・福祉・医療・社会事業・文化活動等の分野で貢献した方を顕彰することによって、更なる活動と研究を促し、キリスト教文化を通して、隣人を愛し、思いやりのある優れた文化の醸成を図る」ことを目的に、公益財団法人日本キリスト教文化協会が主催する。同協会は戦前から流れを株式会社教文館と共有し、現在も協力関係にある。

松岡氏 日本・アジアのキリスト教美術をけん引、心晴れる「青」描く

 松岡氏は、1938年小樽市生まれ。1943~46年日中戦争さ中の中国に滞在。54年石川滋彦画伯(新制作協会)に師事。56年東洋英和女学院在学中に日本基督教団霊南坂教会にて受洗。62年ミシガン州立大学にて学位Bachelor of Fine Arts取得、優秀賞で卒業。欧州歴訪後、吉村順三設計事務所にてインテリア・デザインを担当。田中忠雄画伯(行動美術協会。日本キリスト教美術協会呼びかけ人)の勧めで絵画活動へ転向。文化学院および聖心インターナショナル・スクールで教鞭を執る。85年第1回多摩総合美術展賞受賞。1988~2022年日本キリスト教美術協会会員。1992~98年アジアキリスト教美術協会会長。2001年より東洋英和女学院評議員。05年より日本美術家連盟会員。1994年NHK教育テレビ「こころの時代――祈りを描く」出演。1996年世界教会協議会(WCC)「礼拝と霊性」準備委員会への招聘。

 著書にCD-book『いつもあなたのそばにいる――1000の風になって』(発行:グリーン・メドー/発売:キリスト新聞社)、『松岡裕子26の絵』(発行:グリーン・メドー)。

 81年から養母の朝が設立した般社団法人「海外と文化を交流する会」専務理事を務める。

 松岡氏はあいさつで、幼少時から雲の変化をいつまでも眺めていたと話す。30年前に見た、夕立後の輝く空を忘れられず、「まるで神の玉座がそこにあるかのようだった」として、絵画のモチーフにし続けてきたことを語った。

 幼いイエスを描いた絵が、9.11後の米国の人々の慰めになったこと、キリスト教美術協会の毎年の展示で研鑽をつんだことを振り返った。画家として行き詰った時、講演先の子どもたちからの「これからも神様のお仕事と思って、生涯励んでください」という言葉や、息子からの「心が晴れるような絵をかいてください」という言葉に励まされてきた経験を話した。

 日本基督教団安行教会牧師の田中かおる氏が松岡氏の足跡を振り返った。「素人目にも、松岡先生の描く絵画はいつもどこかに光がさしていて、混沌の世の中にあっても、上からの光・降ってきた光、先を示す光などによって『希望』を感じることができます」

「絵画と音楽のコラボや、国内外の美術協会への参加や責任者としての活動など、この世界へ芸術を通して何かしらのメッセージを発信してこられた」とも紹介した。

 東洋英和女学院同窓生として、共に学院評議員の働きをしたことも振り返った。松岡さんの提案で、同学院125周年記念の植樹でカナダ宣教師に感謝の思いを伝える「桜プロジェクト」、東日本大震災後に「東洋英和・福島の子ども支援プロジェクト」を実施したことを話した。

 「海外と文化を交流する会」会長で、青山学院大学名誉教授のジョージ・W・ギッシュ氏は、書面で松岡氏の業績を紹介。松岡氏は、戦争時に実母を失い、松岡朝氏の養女となった。朝は、1934年にコロンビア大学で日本人女性として初めて法学博士号を取得した人物だった。絵心を持つ松岡氏を励まして石川画伯での指導、米国留学などを勧めた。松岡氏の作品の特徴として、日本人離れした「色彩感覚」と「青」にあると評価した。

岸川氏 キリスト教社会福祉をけん引 実践と研究、教会と共に

 岸川氏は1947年佐賀県生まれ。65年明治学院大学社会学部社会福祉学科入学。67年から横須賀基督教社会館でボランティア活動を行い、69年大学卒業後、社会館に就職。主に地域活動に従事し、89年社会館が創設した高齢者デイサービス所長を務めた。

 98年西南女学院大学保健福祉学部福祉学科教授、2004年西南女学院大学学長・院長に就任。05年社会館常務理事として復職後、07年館長、21年理事長に就任した。

 日本キリスト教社会事業同盟、日本キリスト教社会福祉学会などの役員を長く務めた。日本基督教団田浦教会会員。

 著書に『近隣活動とコミュニティセンター――横須賀基督教社会館と地域住民のあゆみ』(筒井書房、2004年)、共著『日本キリスト教社会福祉の歴史』(ミネルヴァ書房、2014年)、『福祉に生きる君へ』(燦葉出版社、2021年)ほか。

 岸川氏は、「就職して、社会館の働きが宣教の一端になっていることを教えてもらった。長年実践続ける内的要因となった。『最も小さい者たちの一人にしたことは、わたしにしたのです』(マタイ25・40)が大切な聖句」と振り返った。

キリスト教功労者の顕彰目的に触れ、「これからも、いっそうキリスト教社会福祉の実践と研究に努めたい」と語った。

 ルーテル学院大学名誉教授の市川一宏氏は、まず社会福祉の現状について「介護保険制度、障害者・児童福祉制度などの制度自体の基盤が揺らいでいる。さらに解決困難な生活問題に直面しながらも支援を担わねばならないソーシャルワーカー自身が疲弊している」と指摘。「このような社会福祉の危機的状況にあって、福祉を担う人々が立ち返る原点を示すこと、またキリスト教社会福祉を担う組織が、今日の生活問題に合わせたミッションに立って、それを継承しつつ、新たな支援に挑戦していくことが必要。とりわけ横須賀基督教社会館の動向は、日本のキリスト教社会福祉の諸団体から注視されている」と語った。

 1946年に設立された同館は、「地域と共に歩んできたコミュニティセンターとしての歴史を大切にし、キリスト教精神に基づく施設として、不安や孤独、排除や孤立のない、人と人のつながりが大切にされ、希望をもって暮らすことのできる地域社会、自立と連帯のコミュニティ形成を目指す」を基本方針としてきた。

「初代館長エベレット・トムソン宣教師に続き、日本の社会福祉をけん引した阿部志郎先生と共に、設立当初のミッションを実現すべく、岸川先生は施設運営の実務に取り組んだ。『社会館基本理念』(2005年)を基に、実践目標・方針としての『コミュニティケア構想』(2010年)、職員の育成の指標としての『職員人材像・評価基準』(2011年)を職員とともに作成し、丁寧に全体研修を行い、たえず事業の見直しを図った。こうした取り組みは、保育のほか認知症患者や障害者のデイサービス、地域福祉センターなどの複合施設となり、職員も飛躍的に増加した社会館にとって不可欠」と評価した。

 岸川氏は、同館の日曜学校、聖書研究会を母体に生まれた田浦教会の信徒としても活動。同教会は社会館の職員会議、理事会、評議員会の会場となり、牧師が各会議前の礼拝を導く。教会としても祈りや、評議員派遣で支える。市川氏は、「私は、岸川先生の取り組みに、教会の祈りから生み出され、徐々に組織としての規模を拡大してきた社会福祉『組織の新たな発展、挑戦モデル』を見出しており、より多くの組織に同モデルが普及していくことを願う」と期待した。

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