絶望の新世界にクリスマスを 普段着の読書 作家編 第3回 餅月望

『新世界』
柳広司 著
KADOKAWA/角川文庫、288頁、814円税込

 12月2日は、世界初の原子炉が稼働したことを記念する原子炉の日だ。だからというわけではないが、今回は科学について考えさせられるミステリ『新世界』柳広司著を紹介したい。なお、今回紹介する作品には原爆投下後の街など、いくつかの非常に凄惨な描写があるため、そういったシーンが苦手な方にはお勧めできないことを、おことわりしておきたい。

 本作は、原爆を開発した町、ロスアラモスで起きた一つの殺人事件を巡るミステリである。
 1945年8月、終戦を祝うパーティーの最中に起きた一つの殺人事件。原爆開発の父と呼ばれるロバート・オッペンハイマーから依頼を受けた主人公は、事件解決のため調査に乗り出す。その過程で彼は、そこに潜む闇と狂気を目の当たりにする。というのがメインストーリーとなる。

(次ページで、物語の展開、科学とキリスト教、など約1600字)