「『侵略戦争』と『防衛戦争』を同一視してはなりません」ウクライナ船越宣教師報告2023年9月1日

ウクライナの船越真人宣教師から現地の情報が9月1日、編集部あて寄せられた。一部編集して掲載する。

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ロシアが昨年、一方的に編入を宣言したウクライナの4州(ドネツク、ルガンスク、ザポロジエ、へルソン)で昨日31日、ロシアが一方的に設置した当局が地方選挙を開始しました。ウクライナ固有の領土でのロシアの支配を既成事実化するためです。ロシアのこのような行動がウクライナとの停戦交渉を不可能なものにしています。

ウクライナはロシアとの早期停戦を望んできました。事実、戦争が始まった去年2月から3月末までの1か月間、5回にわたる停戦交渉を重ねてきました。しかし、そこでロシアがウクライナに求めた停戦の条件は実質的にはウクライナ(現政権)が降伏することでした。それをウクライナ側がのむわけがありません。

その後(去年3月末)、ブチャなどのキエフ周辺の町々、村々からロシア軍が撤退した後、それらの占領下にあった場所でロシア軍がウクライナ民間人に対してどのような虐待と虐殺を行っていたかが明らかになりました。これにより、ウクライナは現状下でロシアとの停戦交渉を成立させてしまうことは、ロシア軍によって占領されているウクライナ領内にいるウクライナ人を見捨てることになるという原則に気付きました。これにより、ウクライナはロシアとの徹底抗戦の道を選ぶことになりました。

それでも、いずれは何らかの停戦交渉によって現在の戦争状態をいったん収めなければならないことは明らかです。ウクライナも停戦という選択肢を当然視野に入れています。しかし、今回の「4州での選挙実施」のように、ロシアはウクライナが停戦交渉に入ることを不可能とする行動を挑発的に起こしては、それをウクライナが既成事実としてのむことを要求し、それをウクライナ側が拒否すると「ウクライナが停戦交渉を拒否している」と言い、さらには「ロシアは停戦を求めているのに戦争を継続させたいのはウクライナだ」という論理に飛躍させて拡散します。

少なくとも私のまわりでは、この戦争を長引かせたいと願っているウクライナ人は一人もいません。同時に、ロシアによって占領されているウクライナの土地をそのままロシアに譲れば良いと考えている人もいません。そうすることは、そこに住むウクライナ人を見捨てることであり、さらには、そこを拠点にロシアがさらなる侵攻を進め、オデッサを含むウクライナの他の土地も占領することを容認することに他ならないからです。そうなると、ウクライナという国家(その歴史や文化も含めて)が消滅してしまいます。ウクライナ人はそのような選択肢は認めていません。

したがって、ウクライナにとって、ロシア軍をウクライナの領土から何らかの手段で押し出す以外に方法はないのです。去年の2月24日、国際的に確定されている国境線を越えてウクライナ側に侵攻を始めたロシア軍が、自らウクライナ領内から国境線の向こう側の自国領土に引き返さない限り、ウクライナ側がそれを押し返すしかありません。そのために多くの血が流されています。本当に悲しいことです。

誰しも戦争は嫌です。しかし、その戦争も「侵略戦争」と「防衛戦争」を同一視してはなりません。「防衛戦争」は国際法で認められた自衛権ですが、「侵略戦争」は国際法違反であり、さらには民間人への攻撃、虐待、虐殺、強制移住は戦争犯罪です。この状態が一日も早く収束することをただ心から願っています。

船越真人・美貴