第16回:牧師の車 常時駐車は課税?

河野 優 石神井福音教会協力教師 前日本同盟基督教団法人事務主事

教会運営を法律に合わせるのではなく

 「教会の敷地に牧師の車を常時駐車していたら、駐車面積分のみ固定資産税が課税になると言われた」。これは固定資産税の非課税手続をしていた教会から受けた報告である。牧師やその家族が所有する車を教会の敷地内に駐車することは、さほど珍しいことではないだろう。そのことで固定資産税が課税されるとは、それまで私は聞いたことがなかった。この事例では丁寧に説明をすることで全面的に非課税と判断されたが、どこでもあり得るような事例と感じたので、ここに紹介し、ともに考えてみたいと思う。

 概略は次のとおり。教会の土地建物に関する固定資産税の非課税手続で行政担当者が現地調査に来た。担当者は教会の駐車スペースにとめてある1台の車両を見て、「申請書類では来会される信徒用の駐車スペースとあったが、車両の所有者と使用状況はどうなっているか」と質問した。教会側は牧師の所有でプライベートと教会活動のために使用しており、常時駐車している旨答えた。担当者は、「牧師個人が使用する車を常時教会の駐車場に駐車することは『牧師による境内地の私的な使用』に当たり、専ら本来の用に供しているとは認められず、車両1台分の面積分のみ固定資産税が課税となる」と語った。

 さて、あなたが申請者である教会の立場にあったら、どうするだろうか。私の場合、宗教法人実務にかかわる前であれば仕方ないと受け入れていたかもしれない。というのも、役所の判断は正しく、車1台分の敷地の固定資産税であれば税額もたかが知れているだろうし仕方がないと思うからだ。

 今回の事例で問題となったと思われるポイントは、申請時の説明と現況の相違、牧師館が会堂と別の場所にあったこと、車両の所有者が教会ではなく個人であったこと、当該車両を「常時」駐車していたことなどがあげられる。これらの点をふまえて、担当者にあくまで非課税を主張するとしたら、どのような説明をすればよいだろうか。

 おもに考えられるのは当該車両の教会における扱いから説明することである。個人の所有でも教会はその車両を宣教活動のためにも用いており、その維持費用は教会が負担している。そうすれば、たとえ名義は個人であってもその実態は教会活動のために使用するもの(教会の公用車)であり、それを教会に常時駐車することは何ら問題ないと言える。この際には、牧師の車両を教会の活動に使用することの責任役員会等での決議録や、予算書・決算書における車両費等の経費負担などを明記した書類があれば、より説得力を持つだろう。

 実際には申請時に添付していた決算書類に車両にかかる費用が計上されていたこともあり、上記のような説明を担当者にすることで、あっさり非課税となった。これにて一件落着なのだが、教会ではさらにひとこと説明を付していた。

 それは、牧師という役職に対する信仰的な理解についての説明であった。そもそも教会における牧師とは公的な存在として24時間365日いつでもその務めを担っており、働きにおける公私の区別は極めて困難であるということ、それゆえに牧師の車両を教会に常時駐車することは非課税要件に反するものではないとのことであった。

 この説明こそ「教会」実務にとって大切な本質を示している。宗教法人法第84条では、今回のような調査において行政は「宗教法人の宗教上の特性及び慣習を尊重し、信教の自由を妨げることがないように特に留意しなければならない」とされる。単に実務処理上の問題として法定の要件に合わせることだけを求めるなら、それは時に教会の運営を法律に合わせてしまう可能性がある。この世のことばを用いつつも、教会のことばをもって事務を取り扱うことが何より重要であることを教えられた事例であった。

《連載》教会実務を考える