ガザとイスラエルの病院で働き、憎しみを超えて和解の架け橋めざすイゼルディン・アブラエーシュ医師(C)Famille Abuelaish

ユダヤ教の祝日に当たる2023年10月7日早朝、バレスチナのガザ地区を支配するハマスがイスラエルへのミサイル空爆と国境の各検問所を突破して侵攻作戦を展開、パレスチナのイスラム教徒に向けて戦闘参加を呼び掛けた。パレスチナ自治政府は関与していなかったが、ハマスによるこの急襲攻撃に対して翌8日に宣戦布告したイスラエルは、数多のパレスチナ住民を巻き込みながらガザ地区全域を壊滅的な惨状をもたらすハマス掃討を現在も展開している。

パレスチナ難民が目指した
医師への道と和解の架け橋

パレスチナ難民出身のイゼルディン・アブラエーシュ産婦人科医師は、ガザ地区のパレスチナ人患者を開業医院で診療しながらイスラエルの病院でもイスラエル人患者を診療することからパレスチナとイスラエルの架け橋として双方から信頼されていた。だが09年1月、ガザ地区に侵攻したイスラエル軍の戦車に自宅を砲撃され3人の娘と1人の姪を亡くし、上の階の兄弟の住居も砲撃される。イスラエルの病院へ搬送された娘たちのベッドの傍らで取材を受けるアブラエーシュ医師は、「それでも私は憎まない」と宣言し、人間の尊厳を説き、暴力と憎しみを捨てて赦しと明日への希望を持ち続けるよう訴えた。パレスチナ・イスラエル戦争の開戦1年を迎え、赦しと和解による共存を説くアブラエーシュ医師とその家族のメッセージが聞く者の胸に迫るドキュメンタリー。

両親と6男3女の二番目の子として生まれた。貧困から脱出するためには教育を受けることだと8歳の時に気づき、病気で入院した11歳の時に医者を目指そうと決心する。どのような援助を受けたかは描かれていないが、カイロ大学へ進み産婦人科医となり博士の学位を修めた努力家。

イスラエル軍に自宅を砲撃され重傷を負った四女マイヤール(中央)も裁判で砲撃の非を訴える父をサポートする (C)Filmoption

人間の尊厳を
信じて生きる

ガザでクリニックを開くと貧困層の患者には治療費を請求せず、重体の患者はイスラエルの病院で診療できる道を拓き、自身も検問所を通って毎日病院へ通い医療によるパレスチナとイスラエルの架け橋になろうと努めてきた。その医師の自宅と認識して砲撃した犯罪行為にはイスラエル政府に裁判を通して謝罪を求め続ける。相手が官僚・裁判官であろうと人間の尊厳への信頼を捨てようとしないアブラエーシュ医師の一貫した人生の歩みは、その背中を追う彼の子どもたちの言葉とともに信じることの強さに引かれる。【遠山清一】

監督:タル・バルダ 2024年/92分/カナダ=フランス/英語・アラビア語・ヘブル語/ドキュメンタリー/原題:I Shall Not Hate 配給:ユナイテッドピープル 2024年10月4日[金]よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー。
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*AWARD*
2024年:The Hague Movies that Matter Festival2024 観客賞受賞。CPH:DOX2024人権賞ノミネート。Doc Edge Festival 2024 最優秀国際撮影賞・「理解の架け橋」部門 最優秀作品賞受賞。