船越夫妻来日「ウクライナの『戦後』のため教会はどうあるか」

ウクライナ・オデッサ在住の宣教師、船越真人・美貴夫妻が6月から来日し、関西、関東、九州を中心に宣教報告をしている。7月4日、都内で夫妻に話を聞いた。「戦後80年」と言われるが、ウクライナは出口の見えない「戦中」だ。夫妻は、疲労の色も見えたが、宣教と教会への思いを力込めて語り、祈りを要請した。

兵士とかかわれるのは一時的

「戦時中に教会にしかできないことがあるが、教会として戦争を積極的に応援することはできないし、否定することも難しい。治療を受けて、再び戦場に帰っていく兵士たちを見送りながら、心が引き裂かれそうになる。兵士らはまた戦地に行く。戦争が終わってからでないと、本当の意味で、回復と癒やしの働きに専念できない」と真人さんは話す。

オデッサにある、兵士のリハビリセンターの訪問を続けている。ウクライナ各地から来た兵士が治療を受け、また戦地にたつ。多くは一時的なかかわりにならざるを得ないが、オデッサ出身者には長期的にかかわれる可能性があり、連絡先を伝えている。

言葉かけも気を遣う。「相手がクリスチャンではない場合は、『主が守ってくれる』と言っても通じない。正教徒の多くの人は、死んだら天国に行くと思っているが、救いを体験していないことも多い。微妙に言葉を選びながら、福音を土台としたかかわりを心掛けている。戦争が終わって、教会が本来の役割を果たせるように、教会が人々に受け入れられるように、全力でできるだけのことをしようと思っています」

【「ただただ教えていただく」戦没遺族に傾聴】

戦没兵士の遺族ネットワークの一つとつながっている。「国や軍からの遺族への補償は『不親切』だ。ある人の夫が戦没しても、かなり複雑な手続きを経てようやく補償がおりる。戦地で行方不明の場合、長い間生きているのか、死んでいるのか、悶々(もんもん)とし、とうとう死が確定したら、もう本当にもう立ち上がれない状態となる。複雑な手続きする気力もなくなる。私たちは、経済的な補償のない人たちを対象に、食料支援をしています」

個人情報もあり、遺族の自宅を訪問はできないが、教会に来てもらい、食料パッケージを提供する。カフェスペースをもうけ、女性の教会メンバーを中心に傾聴する。「本当にただ教えていただくという姿勢で聞くのみ。しかし、そういう場すら、案外ないようだ。家族や友人にもはなしづらい内容もある。悲しみ、苦しみの意味を見出したいという思いを感じる。まずは教会が安全なコミュニティーなのだということを認知してもらいたい」

美貴さんは「夫を戦地に送って、自分だけで子育てをしたり、あるいは、一人家にいる女性たちがいる。わたしたちが何かできるというわけではない。ただ寄り添っている」と話す。

帰還兵、遺族それぞれとのかかわりを見極める

兵士や遺族にかかわるのは教会の8人のチーム。船越夫妻と、息子で協力宣教師の勇貴夫妻、元兵士の信徒伝道者、聖書カウンセリングを学んだ女性とその夫、夫と子どもを亡くした経験を持つ女性、だ。毎週病院に兵士を訪問、月一回の戦没遺族の女性の会、そのほか不定期の食事会などのかかわりがある。

帰還兵も遺族も人それぞれだ。「ある負傷兵は前向きにインタビューに応えたり、YouTubeで発信し、注目や支援が集まる。しかし、本当に支援が必要なのは、前を向けず、うなだれてしまう人たちだ。それは戦没遺族も同じです」

戦地を経験した兵士にも注意が必要だ。「ものすごいトラウマを持ちながらも武器を扱える人を、安易に教会に招いてしまうと、悲惨なことが教会で起こらないとは言えない。変に怖がるのでもなく、逆に兵士だからいい、ということでもなく、物事を見分けなくてはいけない。そういう視点をチームでも共有しています」

戦地で平和を望む難しさ

「私自身、反戦平和主義の日本で生まれ育って、家でも教会でも学校でも、反戦平和主義以外の考え方はありえないという、立場でずっと来ていた。米国で留学した神学校でも米国の仲間たちと、軍隊の見方、戦争支持の説教や日本への原爆投下の解釈などよく議論した。しかし、自分が宣教しているウクライナがある日突然、戦争当事国となったとき、祖国防衛のために戦っている兵士をどう見るのかと言う問題に直面した。『ウクライナは早く降伏して命をつなげ』という意見も日本にはあると思うが、果たしてそれでいいのかという思いになります」

「今年、トランプ政権になってからは、ウクライナが戦っている意義を根本から揺るがすような発言が続く。そのような中、ロシアは一向に戦いをやめず、プーチン大統領は『ウクライナ全土はロシアのもの』という発言を繰り返している。ウクライナでは、兵士不足で、徴兵の圧力も増している。ロシアのミサイルや爆撃機だけではなく、自分の家族がいつ徴兵されるのか、おびえながら日々すごしている。この一年は非常に厳しい一年だった。戦争から1年目、2年目はもう少し明るいことが言えたけれど、今年は明るいことはいえない」と情勢悪化への苦悩をにじませた。

「ウクライナが戦うのを止められない理由がある」と実情も述べた。「ロシアに何をされるか分からない。2022年3、4月、首都キエフが包囲され、近郊で起きた住民虐殺、またヘルソン、イジュームでの、虐殺、拷問も忘れられない。ウクライナ全土が占領されたら、国のために戦った兵士は戦犯となる。遺族は『何のために、夫や父親、息子は戦死したのか』となる。遺族や負傷した兵士の補償も望めない。私たちからすると、ロシアが撤退してもらうしかないが、実際に何ができるか、と考えるとたまらない気持ちになる。具体的なことは分かりません」

教会も疲れているが、神の働きに期待ある

牧会上の影響も出ている。「教会で長期的な計画をたてるのがむずかしい。特に男性は、いつ徴兵されるかわからい。ある男性は、急に徴兵委員会によばれ拘束された。憲法では良心的徴兵拒否の権利が認められているが、戒厳令下で超法規的な状況がある。教会には、兵役拒否も、戦地に行く人も、どちらの立場もおり、どちらか一方ではなく、それぞれの『良心』を大切にしています」

 「やはり疲れはある。教会の人も疲れている」ともらす。「聖書を読んで理解していたと思っていたことが、本当に確信となっていなかった場合、あれ、という判断をしてしまう人の姿があった」と振り返る。美貴さんも「毎晩のようにドローンや自爆型無人機の音が聞こえる、という物理的な恐怖がある。しかし、それだけではなく精神的な内側からの敵にも直面した。教会員の人間関係だったり、神様への不信感だったり。私たちがフォローできる場合もあるが、どうしても難しいこともあった」と言う。

教会の集まり、交わりや学びの機会に力を入れている。礼拝メッセージでは、福音とは何かを一から学びなおすシリーズを話している。「正教会の伝統があるが、ウクライナ人も、福音を理解していないことが多い。長年集う信徒にとっても大切な学びになっています」。礼拝後にグループでの振り返りを導くリーダーたちを励ましている。前の週に、リーダーと二人ずつ面談して、テーマを語りあっている。

水曜日には、聖書の学び会を開く。今年6月までにダニエル書6章までを読み終えた。ウクライナに戻る9月からは新しいシリーズを始める予定だ。ユースの働きも勇貴さんたちが中心に進めている。

「ついつい否定的になってしまうけれど、私たちの思いの根底には、『何かが進行中だ』という確信はある。だから、ここで離脱してしまうのはもったいない。神様がご自身の計画を進めておられることへの確信があり、そしてそれをできるだけ早く見たい。確実に神様は働いているはずです」

日本の支援者に向けては、「世界でいろんなことが起きているので、風化するのは当たり前。ずっと最初の感情がつづくはずはない。それでも3年以上、ウクライナを覚え続けている方々がいることは本当に驚きで感謝」と述べた。