
J.デイヴィース 著
浅野淳博 監訳、岡谷和作/大川大地/鈴木仰 訳
教文館、268頁、3,960円税込
評者・河野克也(東京神学大学准教授)
黙示の戦闘的イメージを超える平和的共存
本書は、特に20世紀後半以降パウロ研究の大きな潮流となっている「黙示的パウロ」の展開について、その先駆けとなったアルベルト・シュヴァイツァーからはじめて最新の研究者に至るまで、丁寧かつ網羅的に扱った書である。著者ジェイミー・デイヴィース氏については、巻末の赤城海氏の行き届いた解説(251〜260頁)において、友人また研究仲間としての視点から紹介がなされているが、「黙示的パウロ」をめぐる研究史を詳細に分析し、ユダヤ教黙示文学とパウロを総合的に比較検討した論文で2015年に博士号を取得した、まさにこの分野の第一人者である。
まず全体の構成を紹介すると、冒頭には浅野淳博氏の「監訳者のことば」、著者の「日本の読者へ」、ジョン・バークレー氏による「序文」、著者による「まえがき」があり、本書を読み進めるための入念な方向づけがなされる。続く序章(「黙示への困惑」?)では、黙示をめぐる用語と概念の混乱に関するクラウス・コッホの重要な問題提起が紹介される。それを受けて第Ⅰ部の「研究史」では、第1章「黙示的パウロの系譜」で、ヨハンネス・ヴァイスとアルベルト・シュヴァイツァーからJ・ルイス・マーティンまで、6人の研究者によってこの視点の方向づけがなされた経緯が解説され、第2章「現代の学識における黙示的パウロ」で、マーティンの弟子マルティヌス・デ・ブールからリサ・ボーエンズまで、1980年代以降の7人の研究者の議論が「現在進行形」のものとして紹介される。ここまでは新約聖書学における議論の紹介だが、第3章「キリスト教神学と『黙示的展開』」では、組織神学の領域まで視野を広げて新約学における「黙示的パウロ」の議論との対話の状況が取り上げられており、その学際的な広がりが本書の重要な貢献の一つとなっている。
続く第Ⅱ部の「展望」では、第Ⅰ部の研究史の概観において浮かび上がった争点として、第4章「黙示的パウロをめぐる未解決の問い」では、ユダヤ教黙示文学の諸文書との関係性をめぐる方法論的課題に加えて、神学的な側面からバルト神学との対話の課題と可能性を、認識論、終末論、救済論の三つに絞って論じ、第5章「学際的観点から見たパウロの黙示神学」では、従来の黙示思想の定義において中心的な位置を占めていた「二つの時代」の終末論の問題を精査し、近年の研究において強調されるようになった黙示思想の本質的に啓示的な側面をⅠコリント書2章の知恵と啓示の解釈を手がかりに分析し、さらに宇宙論的な側面をガラテヤ書4章の分析を通して検証する。
本書を締め括る結論「黙示的パウロの論調と課題」は、今後の議論の展開を方向づける重要な提言を含む。本書の精緻な議論を通して、現代のパウロ研究における重要な視点を隅々まで正確に理解することができるようになったことは大変喜ばしい・・・
(次ページ[下部にログインボタン]で、ユダヤ教黙示文学の研究との対話、終末論的二元論の解釈、終末論的二元論の解釈、など)
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