
京都・四条烏丸の交差点から少し路地を入ると、今はやりの「町家」を改装したと思われるカフェ「The Bridge(ザ・ブリッジ)」に行き当たる。観光客がカメラのシャッターを切るおしゃれなガラス窓には、お店のメニューとともに、聖書のみ言葉が。教会の名前は「ヒズ・プレゼンス・チャーチ」。「100%カフェで100%教会」。中に入ると、エスプレッソの香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
定休日の月曜以外、火曜日から「日曜日まで」通常営業。普段のままの空間、雰囲気の中で、「礼拝中もカフェを閉じることなく、誰でも自由に出入りできる」。それがこの教会最大の特徴である。近所の常連さんがカウンターに腰をかけ、テーブルではコーヒーを飲みながらパソコンを開くお客さんも。そこで、賛美が歌われ、説教が語られる。「敷居の低い教会ではなく、敷居のない教会をつくりたかった」。そう語るのは牧師の橘直己さんと、カフェのマネージャーでもある妻のひろ子さん。

この教会を始める前、橘さんは自分で事業を行う傍ら、信徒リーダーとして小さな群れを導いていた。牧会をしていた宣教師がある事情でそこを去ることになり、残された数人のメンバーとともに、地下のジャズバーを借りて、日曜日に礼拝を守るだけの教会だった。
転機が訪れたのは2019年6月。バーのオーナーから突然「来週には出てほしい」と通告された。突然のことだったが、「牧師ではない自分が続けられるものではない」と、ある意味ほっとした気持ちで最後の礼拝の日を迎えると、そこにアメリカから来ていた短期宣教チームの牧師とスタッフが訪ねてきた。彼らのTシャツに書かれていたのは、その日礼拝で分かち合ったのと同じ聖句。「起きよ、光を放て」(イザヤ60・1、第三版)。
「今日の礼拝が最後なんです」と話すと、そのアメリカ人牧師が「礼拝場所なら私たちの泊まっているゲストハウスを使えばいい」と言ってくれた。戸惑いはあったが、その週に二人の説教者が同じイザヤ書からメッセージを配信しているのを聞いた直己さんは、彼らとともに礼拝することを決心。それから4週間のうちに二人が信仰を告白し、洗礼を受けた。
アメリカに帰る牧師からは「彼らのために教会を続けてほしい」と頼まれたが、直己さんは「私は神学教育も按手も受けていない」と断った。すると牧師は「私があなたに按手をしよう、神学校はその後で考えればいい」。その場で按手を受け、ヒズ・プレゼンス・チャーチは正式にスタートした。
(次ページで、「伝統の町家」と「新しいカフェ」、宣教の在り方など)
