
先行きの見えない様々な戦争が繰り広げられる現実の中、「戦後80年」を現代のキリスト者はどう考えていけるか。日本福音同盟(JEA)は、「戦後80年にあたってのJEA声明」(以下「戦後80年声明」)を6月4日、JEA総会で採択した。JEA内で多数の議論をへて、全体での合意に至ったという。
今回の「戦後80年声明」は、「1.30年のふり返り(立ち位置の確認)」、「2. 現状 」、「3. 戦後80年の決意 」、「4. 祈り」で構成された。(JEAホームページの宣言文 または記事参照)
同声明作成に中心的にかかわった水口功理事長(東京フリー・メソジスト教団桜ヶ丘教会牧師)、北野献慈社会委員会担当理事(広島福音自由教会牧師)、岩上敬人総主事(インマヌエル綜合伝道教団浦和教会牧師)、児玉智継社会委員会委員長(日本福音キリスト教会連合布佐キリスト教会牧師)は、「ぜひ、この声明の内容を諸教会の祈りに加えてほしい」と語る。四者に話を聞いた。
先輩方が伝えようとしてきたことを十分学び取れてなかったのではないか
―今回の声明が出された意義やきっかけはどういうところにあったでしょうか。
水口 戦後50年、60年、70年、と声明を出したから80年も出しましょう、とすんなり通るものではありませんでした。平和の問題も様々な考え方が出ています。「責任をとれるのか、『提案』くらいでいいのではないか」という声もありました。改めて声明を出すことの意味を考えさせられました。私自身もそうですが、今回のJEA総会に集った代議員は、もう先の戦争を知らない世代。その中で戦後50年からの30年を振り返ったとき、多くの、実際に戦争を体験した先輩方から、戦争の悲惨さ、平和をつくる意味を直接聞いてきたと思いました。これを受け取った者として、この戦後80年に、次の世代に伝えていく責任があると痛感しました。そんな思いをもって、理事会でも様々意見がある中で、尽力させていただきました。
―具体的には、まず社会委員会が作成して、理事会で検討するというプロセスだったのでしょうか。
児玉 昨年6月のJEA総会では議題にならなかったのですが、総会直後に、来年は戦後80年になるということを、社会委員会で分かち合い、声明のことについて検討しました。声明作成の小委員会を設置して、まずは戦後50年、60年、70年の声明を学びなおすことから始めました。小委員会のメンバーは4人中、3人が40代だったのですが、「先輩方が伝えようとしてきたことを十分学び取れてなかったのではないか」という反省からスタートしたんです。
―当初の草案から様々な変わってきたとは思いますが、最初の段階から大事にして、貫かれてきたことは何だったのでしょうか
児玉 やはり今、戦争が世界各地で行われている中で、私たちクリスチャンが、平和をつくるということが、改めて大事なテーマだと確認しました。それをこの声明でいっしょに皆さんと言い表すことができればと考えました。
相次ぐ議論と修正をへて合意に
―一方、様々議論する中で、新たな気づきや変化した部分というのはありましたか。
北野 前回の戦後70年の声明でも、かなり議論が交わされたと聞いています。今回理事会でも、今までの声明についても反対する意見が、大多数ではないけれどもあるにはありました。「こういった内容を出すのはもうやめましょう」、「80年たち風化する中で出すのは難しいのでは」、「今年の総会で声明を出すことだけを議決して、来年の総会で内容を審議するのでいいんじゃないか」といった意見もありました。最終的に理事会では2票差でしたが、今年声明を出すということが決まり、審議することになりました。昨年12月に、社会委員会から素案を出してもらいましたが、当初は反対の声もありました。確かに従来よりも悔い改めや反省が強めに出ていましたが、今までの流れからすれば問題ない内容でした。ただし過去の声明に反対する意見もある中での議論となりました。修正を重ねました。理事会に児玉先生たちも出てもらい、かなり厳しい意見も出ましたが、過去の声明を踏まえ、総会でより多くの人が賛同できる内容にしつつ、戦中の反省に立ち、新たなところに向かうという方向でまとめていただきました。
作成のプロセスとしては、社会委員会の素案を理事会でもんだ上で、社会委員会に戻して、修正案を出し、さらに理事会で修正、さらにJEA加盟の諸教会からも意見をもらい、もう一回修正したものを最終案として、JEA総会に提出しました。去年の総会で、声明作成の発議できればよかったかもしれませんが、結果的には、丁寧なやりとりができ、諸教会が受け入れやすいものが出せたかと思います。
水口 実は、今年6月のJEA総会中も、かなり様々な意見がでました。全部で8つの修正動議が出ました。総会内で臨時の話し合いの場をもち、議長団が粘り強く丁寧に修正動議を一つ一つ審議し、決議をとり、最終的には、閉会ぎりぎりに採択できました。難産ではありましたが、それだけ様々な方々が文言の吟味を含めて尽力していただいたことは意義があったと思います。
祈り、平易さ、諸教会、アジアとも共有
―ありがとうございます。過去の声明と比べて、今回の声明で特徴的なところは、声明の後半部分に「祈り」の文があることです。これは最初の段階からあったのでしょうか。やはり、2023年の第七回日本伝道会議(JCE7)の東海宣言の「祈り」を意識されたでしょうか
児玉 今回の声明の「祈り」は最初の段階からありました。分断があり、多様性が求められる時代ですが、祈りにおいて一つになりたい、祈りで締めくくりたいという思いがありました。小委員会のメンバーの中には、JCE7に参加していた人たちがいました。最終日に参加者の皆さんといっしょに祈りを共にしたことは大きな経験でした。
―ありがとうございます。いよいよ戦後80年を覚える8月を迎えますが、この声明を諸教会の皆さんにどのように用いていただきたいですか。
水口 この声明の最後が祈りでまとめられたことも特徴の一つですが、理事会でもう一つ心に留めたことは、できるだけ平易な文章にしようということでした。平和の問題をあつかうとき、専門用語が出やすくなりますので、なるべく分かりやすい言葉にしようとなりました。そして、JEA総会での採択がゴールではなく、ぜひ、この声明をJEA加盟団体、諸教会で、実際の祈りの一つに加えてほしいというのが大きなテーマです。まず、諸教会で何らかの形で、この声明が紹介され、礼拝や祈祷会で祈っていただく題材に用いていただきたいと願っています
児玉 声明がぜひ、一つの議論のきっかけになればと思っています。様々な意見、考え方があると思いますけれど、声明を題材に、どうやって平和をつくったらいいのかを考えるきっかけになればと願っています。それから、この声明は韓国語にも翻訳されるんですよね。
岩上 はい、今、韓国語と英語の翻訳を進めています。英語版はまずアジア福音同盟にぜひお送りしたい。国際的な場で、日本の教会の声を聴いていただくことはとても大切なことと思います。特にアジアの教会に対しては。先日韓国を訪問しました。一時期、韓国の福音派の組織的課題でJEAとの交流が途絶え、もう一回新しく関係を結び直そうというプロセスにいます。両国の世代が変わり、リーダーも変わる中で、日本の教会が、過去をどう考えているか、お伝えしたい。そういう中で、「きちんと過去の歩みを振り返り、今の取り組みを考える声明を総会で議決した」と言えることは歴史的にも大きな意味があると思います。JEAがこのように始まったという出発点は変えようがありませんので、日本の教会にとっても、様々な考え方はあるでしょうが、もう一回歴史を見ていくことは大切なことかと思います。そして、今の平和の問題があります。この声明を一つのきっかけにして、平和に向かってそれぞれの取り組みを進められたらと願います。
北野 やはり諸教会に用いていただきたいです。日本福音自由教会協議会で会長を務めていますが、声明案の段階から、諸教会の先生方にお伝えして祈っていただき、最終的に採択された声明も皆さんに発信しました。来年の協議会総会の資料にも収めて、皆さんで考える時間を持てればと思っています。福音自由教会は、各個教会主義なので、用い方はそれぞれになりますが、私が牧会する広島福音自由教会では、どのように用いるか話し合っています。たしかに、信徒の皆さんに向けてはさらに丁寧な説明が必要になるかなと思います。政教分離についても、クリスチャン政治家を応援することとの整合性など、丁寧に説明する文面も添えてお伝えしたいなと思います。
海外にも発信できることを意義深く思います。岩上先生は、50年の声明からの経緯を詳しく説明してくださいました。様々な声明の種類についても。今回もしJEAとしての声明が難しければ、理事会声明、それも難しければ、社会委員会声明、としてでも出そうという覚悟で進めてきました。
あと気に入っているポイントは、小見出しが付いたことです。社会委員会でつけてくださいました。過去を踏まえての現在、未来という流れがわかりやすく、議論の整理がしやすかった。児玉先生もがんばってくださった。社会委員会と理事会の間に立ってとりまとめていただきました。
愛による福音宣教の土台、社会と教会で
水口 今回の声明のレスポンスの一つに、全体として同意しつつも、もっと福音宣教の課題を出していいのではないかという声がありました。人口減少や若者の教会離れなどの危機感も盛り込んでほしかったと。私としては、終盤の「福音を証する神の民としての歩みを、私たちに誠実に、勇ましく、速やかに真心もって、なさしめてくださいますように」という祈りに、福音宣教への意識を込められたかなと思っています。
北野 両面あるかなと思います。今回の声明は、教会向けだけではなく、対社会的な意味合いもあります。そのとき、クリスチャンの数を増やすことテーマにするのは、大切ではあるが、誤解につながるかもしれません。隣人を愛するからこそ、伝道するのだという土台が大切です。今回の声明の「決意」の一番目に、「神を愛し、隣人を愛すること」が挙げられたのは良かったと思います。戦後80年声明では、やはり戦争・平和に関することが中心になります。これと別に、JEA全体としての在り方、現状と今後を表明する声明を出してもいいのではないかという話もしました。
水口 皆様から率直なご意見をいただきました。今回の声明はもちろん、すべてを包括できる完全なものではないと思います。これをきっかけに健全な議論が諸教会、諸教団教派、団体でできていければ、とても意味のあることではないかなと思います。
―ありがとうございました。
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