【映画評】〝生きること〟を巡る普遍的な人間ドラマ「木の上の軍隊」

 戦後80年を迎えた今年。沖縄戦と言えば爆弾を抱えて敵戦車の下に潜り込み自爆した少年兵やガマ(自然洞窟)での集団自決など戦争の極限状況が目に浮かんでくる。本作は、そうした悲惨な〝戦争そのもの〟より、人間のモラルが破壊されるような戦争の情況のなかでも〝生きること〟を巡る普遍的な人間ドラマを描き出している。歴史やイデオロギーを超えて〝相手を知ろうとする心〟と〝日々の小さな喜び〟の積み重ねこそが、最も根源的な「戦争への問い」と「人間の希望」ではと問いかけている。


 物語は、太平洋戦争末期の沖縄・伊江島。本土から赴任した陸軍少尉・山下一雄(堤真一)と現地徴兵され戦場を知らない新兵・安慶名セイジュン(山田裕貴)の二人は、六日間続く激しい艦砲射撃と上陸した米軍との地上戦の最中に取り残され、ガジュマルの巨樹に登り身を隠しながら援軍を待つことにした。砲撃が止(や)む夜になると二人は樹から降りて食料を探す。山下少尉はプラムに似たソテツの実を抱えてきたが、安慶名に数日掛けて毒を抜き、でん粉にしないと食べられないと教えられる。やがて艦砲射撃は止み銃撃戦の音も遠のいたある夜、米兵たちが酔って踊り騒いでいるのを見た安慶名は腹立たしく思えた。それでも二人の精神モードは戦闘状態。伊江島の戦闘は止んだかもしれないが、本島は続いている、援軍は必ず来ると信じて…。


 伊江島戦で実際にガジュマルの木の上に隠れ、敗戦を知らず戦闘態勢のまま二年間過ごした兵士の実話を基にした舞台劇を、沖縄出身の平一紘監督が映画化した作品。井上ひさしの原案は二行のメモだった。そこから井上の娘が社長を務める劇団こまつ座が戯曲化して上演。平監督は、オリジナルにはない米軍上陸直前の飛行場建設工事の挿話を加える。国家のために戦い、投降を恥とする洗脳的な美学に生きようとする山下少尉と、伊江島で謳(うた)われてきた〝ヌチドゥタカラ〟(命こそ宝)の想いと島を守りたい安慶名に、やがて極限状態のなかで〝相手を知ろうとする心〟の芽生える過程が鮮明に描かれていく。


 平監督は、戦中・戦後の価値観の波にのまれない〝人間の善意〟を描くことを意図しているようで、戦争という極限状態のなかで「水を飲む」「少しの食事を摂(と)る」といった〝日常の奇跡〟を積み重ねる行為が、いかに明日へつながるかを映像化している。これまでとは異なる沖縄戦映画の視座が感じられる。【遠山清一】

監督・脚本:平一紘 2025年/128分/日本/映倫:G/ 配給:ハピネットファントム・スタジオ 7月25日[金]より全国ロードショー。URL https://happinet-phantom.com/kinouenoguntai/ ©2025「木の上の軍隊」製作委員会

【リニューアルのご案内】

以下リニューアルのご案内です。電子版購読中の読者の方につきましては、2か月としていた移行のための無料期間を【3か月】(9月末まで)といたします。

リニューアル号2025年7月より

2025年7月より

電子版:速報・詳報記事を随時掲載

    紙面ビューアー

※バックナンバー閲覧可能

紙版:月2回発行

■購読料

紙版(送料込)

月額1,226円(オンライン申込・限定クレジットカード支払いのみ)

6か月6,756円※本紙代が10%お得です

年額1.3512円※本紙代が10%お得です

電子版

月額900円(税込)

年額10,300円(税込) ※毎月払いより約5%お得です

紙・電子併読版(紙版の年額+2500円で電子版併読が可能です)

月額1,400円(税込)

年額16,000円(税込)※毎月払いより約5%お得です

■リニューアル記念購読キャンペーン(受付期間:7月1日~10月31日)

・キャンペーン期間中、新規年間購読(紙・併読、電子)の方には、柏木哲夫著『幸せのかたち』をもれなく贈呈(書籍はご入金確認後、発送は9月末以降を予定しています)。

・新聞の無料試読特典(紙版1か月、紙・電子併読1か月、電子版2か月)がございます。

■電子版購読済みの方

現在の購読プランを【3か月間】(※変更)の無料期間に自動移行させていただきます。

(無料期間:2025年7月1日~【9月30日】(※変更)まで)

大変お手数ではございますが、決済方法の変更のため、

無料期間のうちに下記の新ご注文受付サイトより、

ご希望のプランの再注文手続きを頂けますようお願い申し上げます。

※無料期間中のご注文の場合、最初の課金日は無料期間終了後の10月1日になります。

※無料期間中のプラン変更(電子版→併読版など)は、無料期間終了後に反映されます。

■新ご注文受付サイト(新サイト開設と同時に開設)