第7回:「教会の規則」と「法人の規則」

「教会の規則」と「法人の規則」

河野 優 石神井福音教会協力教師、前日本同盟基督教団法人事務主事

宗教法人を設立するためには、宗教法人法の規定に沿って「規則(法人規則)」を作成し、「所轄庁の認証」(「認可」ではない)を受け、法務局で設立登記をすることが必要である。しかし、多くの教会では法人の有無にかかわらず、規則、規約、教憲、教規、政治規準などといった「教会の規則」をすでにもっているのではないかと思う。
その場合、法人設立に伴い、すでに持っている「教会の規則」が「法人規則」に切り替わると思われるかもしれないが、そうではない。宗教法人をもつ教会は、基本的に「教会の規則」と「法人規則」という二つの規則をもって活動をすることになる。なぜ宗教法人をもつ教会は二つの規則が必要なのか。それを理解するためには、戦時中に施行された宗教団体法と、戦後に施行された宗教法人法の規定とを比較することが有益であろう。
宗教団体法において宗教団体を設立するためには、教義の内容やその宣教、儀式、教職者の任免などを含めた規則を作成し、「主務大臣の認可」を受けなければならないことが定められていた。さらに、公益を害する行為を行ったときには、主務大臣は当該宗教団体や教職者の活動停止、団体の認可取り消し、教職者の改任などを命じることができると規定されていた。このことは、国家が宗教団体を統制し、信仰の本質に関わる事柄に深く介入できることを示している。事実、戦時下にあって教会を含めた宗教団体は国家の統制下に置かれ、教会は戦争協力という大きな罪を犯してしまった。

 

教会を世の法の下に置かないために

このような歴史の過ちを繰り返さないために、宗教法人法は作られている。宗教団体を設立するのは自由で、行政への届出も無用である。宗教団体が宗教法人を設立するには、冒頭の手続きを要する。法人規則に定めるべき内容は、宗教法人法第12条に列挙されているが、そこにはかつての宗教団体法にあったような宗教的事柄は含まれていない。あくまで、財産管理や法人としての事業を運営するために必要な事項に限られている。
宗教法人法の施行に合わせて文部省から都道府県の宗務事務担当長宛てに出された通達(昭和26年7月31日、文宗第23号)では、そのことが具体的に記されている。例えば、認証に関しては「その規則や手続きが法令の規定に適合しているかどうかを審査するにとどめ、宗教の価値判断を行い、その他宗教本来の領域にふれることのないよう注意すること」とある。また法人規則については「法第12条第1項各号に掲げてある事項(必要事項)のみを記載し、それ以外の事項は記載しない」「宗教団体の財務その他の世俗面に関する事項を記載し、宗教面に関する事項は記載しないことを原則とする」とし、そこでは別途、宗教面に関する規程が必要であることが確認されている。
あらためて最初の問いに戻ろう。なぜ宗教法人をもつ教会は二つの規則が必要なのか。それはキリストをかしらとする教会の運営を、この世の法の下に置かないためである。教会が法人として法的な権利・能力を得、行使するためには、法の下に一定の義務や責任が生じる。それでも、教会の本質に関わる事柄は、国家の手に触れさせてはならない。私たちは「神の法(教会の規則)」の下に「この世の法(法人の規則)」を位置づけ、それらを区別しつつ一体的に運営するので、必然的に二つの規則が必要になるのである。
教会のかしらはキリスト以外にはなく、その歩みはすべてが神の支配の下に置かれている。地上における教会の歩みは、この地に神の支配を確立していくことでもある。そこで絶対的な基準となるのは神のことばであって、この世の法ではない。このような教会の在り方は、本質的には法人の有無に関係はないが、宗教法人をもつ教会は特に、二つの規則を区別し適切に位置づけられているか、改めて確認することが必要である。

《連載》教会実務を考える