【書店】本を販売する小売店【本屋】本を売る人たち
新型コロナウイルス感染拡大を受けて、本連載で考えようとする「本屋の存在意義」はますます薄らいでいるようにも見える。ネット書店に対抗し、イベントや空間体験を重視したリアル書店は、その活動を制限せざるを得ない。各出版社は一部の書籍をオンラインで無料公開し始めた。外出を自粛するのを機に電子書籍の利用も増えるだろう。
だが、かすかに望みはある。この期間に読書をしようという声も聞こえ始めているからだ。レジャー施設が閉鎖、図書館が休館する中、静かな書店で時間を過ごし、本を選んでいる人たちは微増しているように見える。とはいえ、他の小売店、業界ともども苦境に立ち、撤退する書店も出てくるのではないか。「緊急事態宣言」が発令された場合はどうなるだろうか。以下の連載は、新型コロナウイルスの深刻な事態が起こる前に大部分を取材しまとめたものだ。
§ §
まちから書店が消えている。交差点や商店街にあった書店が閉店した。駅前や郊外ショッピングセンターの中型、大型チェーン店はにぎわいを保つ。だがメディアを通して知った本は、Amazonやオンライン書店でクリック。リアルの書店に行く機会は減った。ましてキリスト教書店ともなれば、限られた都市にあるのみだ。
一般書店界では、流通の課題をテーマにしたイベントが１、２月に相次いだ。これらを受けて、この連載では、現代における「本屋」の存在意義、可能性を、キリスト教書店を視野に入れて考えていく。
☆ ☆
「本屋」の“空間”を取り戻せるか
書店の風景はこの30年で急激に変わってきた。90年代にはブックオフなどの新古書店が台頭。Amazonなどオンライン書店が影響力を強め、２０００年代には、大規模小売店鋪立地法が変わり、超大型書店が各地に出店した。その代表格ジュンク堂のキャッチフレーズは「図書館よりも図書館らしい」だ。
図書館も変貌している。民間の委託が増え、本を提供するだけではなく、書店、カフェを併設したり、就労支援、コミュニティー形成に寄与しようとするところもある。
情報の入手方法自体が変わってきている。電子書籍もあるが、ＳＮＳやブログ、ホームページ、動画での情報収集が主流だ。５Ｇが普及すれば、この傾向は、ますます加速するだろう。人々の生活の中で、本を読む余地は狭まった。ならば書店の存在意義とは何だろうか。
書店では、次々と新刊が並び、流行や時事、思潮に触れることができる。その刊行スピードは増した。１９７０年代に年間２万点だった点数は２０１０年ころには８万点を越えたという。短期での売り上げを出さなくていけない出版社の事情もあるだろう。
出版の全体量が減少し、点数だけ増加するとどうなるか。全国にある書店は１万超。一方で多くの書籍は初版２千〜３千部だ。新書も２万部程度だという。大型書店に複数書籍が回るとすると、小さな書店に書籍が回る見込みは薄い。少しでも話題になった本が店頭にない、ということが続けば、その書店から客足は遠のく。また点数増は書店員の仕分け作業の負担が増える。このことが選書の難しさを生み、排外的、敵対をあおる「ヘイト本」の流通にもつながる。
昨年末に刊行された２冊の本、『私は本屋が好きでした あふれるヘイト本、つくって売るまでの舞台裏』 （永江 朗、太郎次郎社エディタス）、『13坪の本屋の奇跡 「闘い、そしてつながる」隆祥館書店の70年』木村元彦著、ころから）がその問題を指摘し、それぞれ１月にトークイベントを実施した。
一方、小さな動きだが、本屋とその空間を、従来とまったく違ったものにする動きが起きている。独立書店、セレクト書店と言われる個性的な書店の増加だ。話題の本、売れ筋の本を並べるだけではどの書店の店頭も似てくるものだが、セレクト書店は、独自な品そろえが特徴だ。イベントや雑貨、飲食とも組み合わせ空間体験を重視する。
「ポパイ」、「ブルータス」といったカルチャー系雑誌では、ここ数年全国の個性的な「本屋」に注目している。建築雑誌「建築知識」１月号では書店を特集した。建築だけでなく、流通の知識や陳列の工夫まで手取り足取り伝えた。１月末には、このようなセレクト書店が全国から40店集った「本屋博」が開催され、連日来場者で賑わった。
この連載では「本屋」の在り方をめぐり、ヘイト本問題、セレクト書店の興隆、さらに東アジアとの連携に注目する。そしてキリスト教書店の実情に触れる。
本連載では、単に書籍を販売する小売店を「書店」、本を売る多様な形態、およびその担い手を「本屋」と呼ぶことにする。（つづく） 【高橋良知】
