国際連合が女性の地位向上を目指して1975年を国際婦人年とすることを宣言した。同じ年の10月24日金曜日、アイスランドの90％もの女性たちが“男女平等”を求めて「女性の休日」を宣言し、家事や仕事を一斉に休んだ。国は機能不全に陥り、女性の働きがないと国は立ち行かないことを実証した。その後、アイスランドのジェンダー平等は進展し、15年連続でジェンダーギャップ指数1位を達成している（２0２４年現在、世界経済フォーラム発表）。2000年現在でアイスランド福音ルーテル教会（国教会）所属のキリスト教徒が人口の87・８%を占めていたアイスランド。聖書が教える普遍的な真理――すべての人は神のかたちに創造され、すべての信徒は互いを愛し、支え合う召しを受けているという福音的共同体の実践――の一面を映し出している。50年前に踏み出された始めの一歩は、どのようにして実行できたかを追ったドキュメンタリー。
ジェンダーギャップ指数1位のアイスランド
国際婦人年の50年前に踏み出された一歩
パメラ・ホーガン監督は、本作を5つの章立てで構成している。
［1］抑圧された日常――「将来、船長になりたい」「法律を学びたい」と夢を描いても「無理だね。女の子だから」。社会に出れば、同じ仕事をしても給与は男性の半分。新入社員に仕事を教えても出世するのは男性だけなど、1950年代から70年代初頭のアイスランドにおける女性の社会的地位の情況を伝える。
［2］レッドストッキング運動の萌芽――同時代の欧米に広がるフェミニズム潮流との出会い。デンマークのレッドストッキング運動にならってアイスランドにも急進的なフェミニズム団体レッドストッキングが結成され、国営放送の営団でラジオ番組を持たせてくれて女性たちの共感と理解が拡張する。美人コンテストに反対し家畜の牛を会場入り口に運び「牛に品評会」と揶揄する。女性たちのストライキを提唱し、その気運が高まっていく。
［3］ストライキ準備――ストライキの実行には解雇される参加者が出現することも危ぶまれる。攻撃的な呼称に反対の保守的な層もあることから「女性の休日」改称。その趣旨と参加をチラシ、友人知人への電話や口コミュニケーションで呼び掛けた。個人の「あり方」から共同体としての「召し」へと移行していく。
［4］1975年10月24日――「女性の日」の呼び掛けに当初、男性たちはシニカルな反応だった。実行日が近づくにつれ不安が募る。女性たちも、いったいどれほどの人たちが「女性の日」の各集会場に参加してくれるのか見当がつかない。その当日、国の90％の女性が仕事も家事も放棄し、一日「休む」ことで国を停止させた奇跡の一日の情況がいきいきと語られる。
［5］その後の生成――「女性の日」の翌年、男女平等法が制定され男女平等審議会が設置されたが、賃金格差も議員数格差もすぐに状況の変化を見たわけではない。それでも、格差是正への理解と賛同は確実に浸透していた。1980年にはビグディス・フィンボガドッティル氏が民主的な選挙で選ばれた世界初の大統領に、2009年にはヨーハン・シーグザルドッティル氏が初の女性首相に就任した。法的平等への歩み、世界への影響はいまも大きい。
国民が理解と賛同を共有
ジェンダー平等への協働
監督パメラ・ホーガンは、当事者のインタビュー、貴重なアーカイヴ映像、手描き風アニメーション、アイスランドの自然風景を織り交ぜながら物語を紡いでいく。正味70分間にテンポよく個々人の主観的体験と、社会変革の客観的事実がバランスよく提示されていて“闘争”よりは、粘り強い信念と和み感に包まれる。
本作には登場していないが、「女性の休日」が実行された前年の9月29日にアウドゥル・エイル・ヴィルヤゥルムスドゥッティル氏がアイスランド福音ルーテル教会で初の女性牧師として按手された。これは宗教的権威と世俗的平等運動の間の架け橋役を果たし、女性の社会的平等が宗教的にも承認されたことを示す重要な象徴的出来事でもあった。50年前にアイスランドで体現された「女性の日」の証言は、今日の教会にも強いインパクトをもたらすだろう。 【遠山清一】
監督：パメラ・ホーガン 2024年/71分/アイスランド＝アメリカ/アイスランド語・英語/白黒・カラー/原題：The Day Iceland Stood Still 配給：kinologue 2025年10月25日［土］シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
公式サイト https://kinologue.com/wdayoff
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