支援 – クリスチャン新聞

「助けてもらうこともスキル」と支援者の心のケアに取り組んできた郭ヘレンさんは言う。「仕える人・支援者のケア」をテーマにする特集「3人に聞く」（※）。今回は災害支援団体クラッシュ・ジャパンなどで、東日本大震災後に心のケアを担当したカウンセラーの郭さんに話を聞いた。 ※「仕える人・支援者のケア」：9月は防災月間。近年教会も災害支援活動に取り組むが、支援者側も疲弊する過酷な状況に気を付けたい。通常の牧会、奉仕の現場でも「燃え尽き」は起こりうる。コロナ禍でも経験されたが、今後予想される「人手不足」は、少数の働き手に負担をかけそうだ。「燃え尽き」にどう対処するか。経験者やカウンセラーなど、三人に聞く。 関連記事 https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-iz239pgrusuvmfdq/ 母の死、出産、来日、家族のケアに追われ…カウンセリングから「救い」を実感 ―傾聴の働きはいつから始められたのでしょうか。何かきっかけがあったのですか。 日本に来たのが、1989年でしたが、その前年に母がなくなったんです。長男を妊娠していて、かなりうつ状態でした。そのころは「うつ」という言葉も知りませんでした。私の育ったキリスト教の環境では、精神的な病は「悪魔の働き」という見方がありました。日本に来て1年ほどは、すごく大変でした。実は、8人兄妹の長女で、母が亡くなったとき、下の妹はまだ4歳だったんです。日本の生活に慣れながら、最初の何年間はアメリカの家族の心配を抱えていました。 日本の教会にも馴染めませんでしたね。やはりアメリカから来ると、「ケーキの作り方を教えてください」とか「英語を教えてください」と言われ…。私は悲しんでいるのに、そういう対応は私にとって辛（つら）いものがありました。夫の家族も週末遊びに来て、私は料理を作ったりと、まあ、いい人として頑張っていました。 そんな中、ある単立の教会に出会いました。そこは教会自体が、カウンセリングの働きから出来たところでした。そのリーダーが、私をかわいがってくださり、母親の代わりをしてくれたのです・・・ （次ページで「災害支援の現場に入り、見えたもの」「牧師や教会のリーダーは、日常の中で、じわじわとストレスを抱え込んでしまう」「今後の働き」など約2600字） 小さいころから神様には馴染んでいて、様々な経験もしてきましたが、そこで本当の救いを実感しました。 問題を抱えている人は多い。でも、クリスチャンでない人は教会でカウンセリングを受ける決断をするまでに時間がかかり、問題が更に悪化してしまうんです。 このことを重くみた教会リーダーは、以前、教会の中で行っていたカウンセリングの勉強会を地域コミュニティーの活動として始めました。一人ではなく、みんなで学ぶと、視点の違いに助けられます。子育ての忙しい時期でしたが、私も活動に参加していました。 教会活動から地域コミニュティー活動に変わったこの時期に、リーダが交代し、カウンセリングから傾聴へとスタイルを変更しました。 「カウンセリング」という言葉だとみんな、おでこにしわが寄ってしまうのですが、そのころ「傾聴」という言葉がブームになっていたので、「傾聴のひろば」、「傾聴カフェ」という形で何年も活動していました。震災が起きてからは、私は震災支援活動に集中していきました。その後、大学院で学び直し、カウンセラーの資格も取りました。 「支援リーダーが厳しく休ませてくれたのが良かった」 ―災害支援の現場に入り、見えたものは何ですか 支援現場には、沢山の若者がいました。彼らは、神学校を卒業しても、まだ行先が決まっていない人とか、仕事が見つかっていない人など支援活動だけで心がダウンしているのではなく、活動前のことが解決していない人もいる。災害支援活動は、誰でも手が空いていれば来てください、ということでは、その時は助かっても後が大変になります。 ―時間の経過とともに見えることがありましたか 「思いやり疲労」という言葉があるんです。人に心を注ぐと疲れてくるということが一つ。これはスタッフとボランティアの中で沢山見えていました。 また仕事の環境、団体のあり方からも「燃え尽き」という問題があります。この問題も多く見えました。 このストレスは一つの種類のものです。このことについては、1980年代から、アメリカで研究が進んでいます。人の中には回復できる素晴らしい力があります。私はこのことについて学ぶ必要を感じました。 ―心のケアの知見を得て、実際どのように支援者たちをサポートをされてきましたか 震災の翌年からクラッシュ・ジャパンで心のケアの担当になりました。スタッフの傾聴をし続けて、スタッフのためのワークショップやリトリートを企画しました。ある支援ベースで担当する若者の様子が自分らしくなかった時、「2週間休みをとるべき」という〝ドクターストップ〟をかけことがあります。そのころはまだ私も勉強不足ではありましたが、心の中で、『この人を活動させてはいけない』と思いました。このことから、もっと勉強する必要があると感じていたところ、心理学の知識を取り入れている支援団体や教会があることを知ったのです。 ―その後、大学院などで学びを深めて、改めて震災初期の反省などありますか。 反省というよりも、経験と大学院で学んだことをシェアさせてください。燃え尽き対策は、リーダーが鍵です。能登地震支援で、「リーダーが厳しく休ませてくれたのが良かった」という声を最近聞きました。教会が災害支援を行う場合にはリーダーシップが重要です。まずトレーニングをを受け、それを受け続けることが必要だと思います。自分の弱さや恐れ、ニーズについて考えて話し合う場を定期的にもてると、何か起きた時に、戻れる場になります。 牧師やリーダーだけでなく、ボランティアやスタッフも出かける前に必ずトレーニングをするということも、重要です。 災害支援ベースでは、支援活動から戻った夜に、その日のことを話す場があります。そこで話すことでストレスを発散できます。身体からストレスを発散しないと、ちゃんと休めません。 ライフラインが切れている時期などは、どうしても無理しても支援したいと思うでしょう。しかし、その気持ちが長期化すると危険です。一回撤退して、冷静になってポリシーを決めることが必要です。 「助けて」が当たり前になれば ―災害以外でも、牧師や教会のリーダーは、日常の中で、じわじわとストレスを抱え込んでしまうかもしれません。アドバイスはありますか。 「助けてもらうこと」への恥が無くなればいいと思います。「助けて」を常に出せるシステムが生まれるのを私は見てみたいですね。助けてもらうのもスキルなんですよ。そのスキルが上手になることが一つですね。ただ、教会を導いてくれる人に「助けて」と言っていただくには、その人の立場を汚すように思われて、周囲の人にとっても難しく思うかもしれません。 消防士にとって、はしごは当たり前の道具です。同じように心のサポートシステムが当たり前になればいいと思います。災害支援でも、牧師にとっても。 ―どんな人にとっても人生の中で「災害」と言える出来事に遭遇します。 みな赤ちゃんとして生まれ、家族の中で、ある意味で様々な災害を乗り越えて生きてきました。本当にみんな助けが必要な存在なんです。一人ひとり完全に独立してやっていけるという人間のイメージは一体どこからきたんでしょうね。 ―「自己責任」という言葉が言われますね。 ひどい言葉ですよね。本当にみな頼れるところがないんです。教会がそのような方々の家族のようになっていければいいなと思います。 ある意味ではみな一回燃え尽きてもいいんです。燃え尽きを経験した人は、自分は何もできない、助けを求めなきゃいけない、という知恵を持っています。その世代の方々が、次の世代を支えていくということも考えられるんじゃないでしょうか。教会こそそういう場になっていければと思います。 ―今後の働きの予定をうかがっていいですか 国際惨事ストレス財団（ICISF）の惨事ストレスに対するメソッドが、日本でも航空業界を中心に広がっています。私はこの認定インストラクターとして、NPO PSV JAPANのセミナーなどで講師をしています。9月には、宮城県で災害支援を経験した牧師とも協力し、メディア、ヘルス関係などの方々とともに学びます。こういう場に牧師も参加されると、自らの学びにもなりますし、皆さんから関心を集めます。 そのほかにも今後、教団教派のセミナーでお話しする予定です。 人の心は常に動いています。災害は特に身体に影響を与えます。何もなくても、「もしも自分の家族が亡くなったら」と考えるだけで息がつらくなるでしょう。ですからあらかじめ、心のケアを学ぶ必要があるのです。 関連記事 https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-iz239pgrusuvmfdq/ https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-xv75u8ft0fcsnnaq/

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