牧師子弟

「自殺を毎日考えていた。そんな状態では教会に居られなかった。（10代、学生）」。「質問が極めて不愉快。神様を離れて生きることは罪。（30代、牧師）」。 ――いずれも、牧師子弟を対象に行ったアンケートで、教会から離れたいと思った経験の有無や理由についての質問への回答である。なぜ、ここまで著しい認知の断絶が生まれてしまうのか。牧師子弟の事情にスポットライトを当てる。 アンケート概要 募集期間：2025年8～9月 回答形式：ウェブ上のアンケートフォーム 回答総数：98件 ※全ての設問は任意回答（必須回答項目なし）。複数回答可。各設問での回答の合計は回答総数と一致しない。 本アンケートの目的 「牧師子弟」「牧師の子ども」「ＰＫ（Pastor's Kid）」。牧師を親に持つ人物を指す言葉は複数存在する。多様な教派、様々な文脈においても、彼らが〝他と少し違う〟見方をされる傾向にあることの、一つの現れかもしれない。この言葉の背景で、当事者たちは、何を受け取り、何を思っているか。本紙はＰＫを対象にアンケートを実施した。広く総意を得るためではなく、あえてネガティブな質問を多く並べた。当惑の声もあるだろう。しかし、長く戸惑いの中にいた当事者たちの声を聞き、課題の整理や解決への前進を試みたい。 Q1. 年齢 Q2. 性別（記述式） Q3. 兄弟姉妹はいますか？ Q4. 職業 Q5. 通っている（通っていた）教会の教団・教派 Q6. 教会と牧師家族の住居は、同じ建物ですか？ Q7. 教会に、あなたの両親以外にも牧師・伝道師などの教職者・教会スタッフはいますか？ ▼ＰＫ特有の状況、時代問わず 現在牧師家庭で暮らす若いＰＫの現状だけでなく、年長者の過去の体験も聞くことを意図し、広い年齢層から回答を集めた（Ｑ１）。しかし年齢が違えど、回答の傾向に大きな違いは見えなかった。牧師家庭や教会で発生する課題には、世代を超え続いているものがあるようだ。 Q8. あなた自身に、教会での奉仕や仕事の役割はありますか？ それは教会で認知されていますか？ 回答の抜粋 ・賛美を担当、週報に記載あり。セルグループのリーダーを担当、教会総会資料に記載あり。 ・基本的には総会で皆で決めた奉仕以外にはありません。イベント前の設営や細かい事の準備には家族で借り出されます。母が私に参加するか尋ねてくれることも最近はよくあります。ゴミ集めは我が家が自宅のぶんも合わせて行うのですが、教会員が見ている前で行っています。 ・礼拝での奉仕から各会の役割まで、他の教会員と同じように役割があり、認知もされていた。 ・会堂清掃。教会の活動記録に載っていないが教会員は知っている。 ・印刷、牧師補佐、配信、祈り会リードなど、子どもの頃はほとんど認知されていなかったが、最近は目立つ働きが多くなり、認知されるようになってきた。 ・PKだった時は色々やってたが、認知されてるものが多かった。 ・特にはなかったが、礼拝や集会の準備、後片付け、掃除などは自発的に両親の手伝いをしていた。教会にかかってくる電話と取り次ぎ、来客の対応も物心ついた頃からしていた。 ・子どもながらに、同世代のケアとかやってました。 ・会計以外は全てやっていた。 ・聖餐式のパンを買ってくる、トラクトのハンコ押し・折り、などの雑務。どのくらい認知されていたかはよくわかりません。 ・CS教師、奏楽、祝会などの仕切り役、掃除、愛さん会用の米とぎ（知られていない）。 ・ワーシップリード、司会、CSなど認知されやすい奉仕と、掃除、印刷、印刷物の掲示、配布など認知されにくいものがあった。 ・会堂掃除、食事作り、印刷など奉仕としてより両親の手伝いとして小学生頃からしていた。認知されてないと思う。 ・週報印刷、親のお手伝いの延長上にあり教会内に認知された経験はない。 ・キャンプやイベントでの遊びを考えさせる、病気の教会員を見舞う。記録には載っていない。 ・ある。教会では無視されている。 ・ない。やめた。 ・わたしに、奉仕をやらせてはくれない。 Q9. 両親や信徒から、教会で奉仕することが当たり前のように期待された経験はありますか？ それは進路決定に影響していますか？ 回答の抜粋 ・強制はない。逆に、前に出る奉仕はいくら賜物が秀でてもさせてくれなかった。 ・期待もあったとは思うのですが、イエスさまがよろこんでくださるとの思いのほうが優位にあり、奉仕自体を苦にしたことはなかったように思います。 ・当たり前に生涯奉仕をする選択をしていましたので、思われても不快な事は全くなかったです。むしろ期待されなくなると悲しいぐらいで。更に、進路に関してはとくには干渉されなかった記憶でいます。 ・進路には特に関わってないけど、奉仕は当たり前にさせられた。でも、同時にその恵みを知ることができて、今はそれでも良かったかな、と思わなくはない。 ・誰もやりたくない奉仕の穴埋めをさせられた、という感じ。ただ、いやいややっていたわけではない。印刷の奉仕をしていたときは、今思えば貴重な父との会話の時間だったし、夕礼拝や祈祷会の奏楽（ちなみに朝礼拝は希望者が多すぎて一度もさせてもらえなかった）も、神様にとても祝福してもらえて、その時の経験が今信じられないくらいいい出会いにつながってるから、『やらなければよかった』とは思っていない。 ・中学生になってCSのスタッフ的な位置付けに。その後、こどもに関わる研究や仕事をするようになった。 ・幼少期〜青年の頃まではむしろ期待を見せないよう気を遣われているように感じていました。 ・ない。むしろ中学生頃から長い間教会をから離れていたので、期待もなかったように思う。 ・自分の意志というより、親の手伝いという認識で教会に出席する期間が長かった。 ・期待されていたとは思わないが、両親の姿をみる中で当然の事として手伝っていた。 ・奉仕を期待されることはあったけど、牧師の子どもだからと言うわけではないと思う。 ・当たり前だったし、自分も当たり前だと思っていた。 ・進路とは関係ないけど、途中から開拓伝道だったので奉仕は当たり前だった。 ・期待かどうかは分からないが、両親から当たり前のように奉仕を押し付けられてきた記憶はある。 ・父が牧師なので、小学生の頃から礼拝への出席と、賛美奉仕が当然のことだと強いられていた。 ・進路に大きくは影響していないが、負担に感じて受け止め方に悩んだことはある。 ・教会での奉仕は家族だから頼みやすく任されている部分はあると思う。進路には影響していない。 ・最初はやりたい奉仕を自発的にやっていたが、年を重ねるごとに他の奉仕の責任ある立場にさせられた。引っ越して他の教会に移りたくても半強制的に母教会の礼拝に出なければいけない。 ・当たり前のようにさせられ、特に母から強要された。断ると嫌な顔をされ、いやみを言われる。自分の信仰もままならないのに、献身者並みの奉仕をさせられる。心の内はいつも泣いている感じ。とてもつらかった。その後の進路決定には影響しているかもしれない。1年間信徒としての学びのため、神学校に行ったので。 ・「はい、喜んで。と言うのが献身者の姿だ」と、献身者ということが分からないうちから言われていた。 ・礼拝に出席することは暗黙の了解で必須だったが、その他はない。信徒からは「神学校に行かないのか」とは聞かれたが、召命が与えられたら行きます！ と答え、あまり気にしていなかった。 ・自然と後継の牧会者になると周りからは言われることが多い。それによって進路を決める事にはならないが、その声を心のうちに入れすぎないように心がける必要はある。 ・少なくとも親からは無い。信徒は無自覚にプレッシャーをかけてくるが、気にしてなかった。 ・教会メンバー（特に年配者）から優等生的な動き（奉仕、友達を誘うなど）を期待されたことはありました。 ・ピアノを習っていたので奏楽。進路はあえて全てを無視して自分の希望を優先しました。 ・ピアノが弾けるから、将来は奏楽かな？ と言われたと思います。私は緊張や期待に弱いので、そういう風に言われただけでプレッシャーで固まってしまいます。 ・奏楽者となるために小さい頃からピアノを習わされた。 ・奉仕のためにオルガン習得を勧められた。断ったが意志が尊重されず中途半端なモチベーションで始めることになり、先生にも快く関われなかった。教会で役立てるまでに至ったが、教会に関連することとなると全く意志が尊重されないことにはウンザリ。その後活躍せざるを得ない私の様子に安堵しきりの親に尊敬は無い。 ▼〝家業手伝い〟と奉仕の狭間 教会活動への参与について聞いたＱ８、Ｑ９の回答から、ＰＫには自営業の家庭などで見られる〝家業手伝い〟と似た状況がある、と考えられないだろうか。人手不足や若手不足はどの教会でも理由となるが、開拓教会ではますますその傾向は強まることが想像に難くない。 また、住居と教会が共用ならば（Ｑ６参照）、ＰＫ含む牧師家族は常に教会にいることになる。担う奉仕が増えていくことは自然の成り行きとも言えるかもしれない。 ところで、弟・妹を持つ兄・姉からの回答がやや多かった（Ｑ３）。き ょうだいの中で年長者ほど、負担の集中など問題意識を感じやすかったからだとすると、これも家業手伝いとＰＫの共通点かもしれない。 ▼後から気づいて悩むこと 裏方の奉仕が、それに参与しない信徒から見えにくいのは、ＰＫに限る話ではない。しかしＰＫにはＰＫならではの事情も加わるようだ。幼少から長く担当し続けたことで、「ＰＫが担当するもの」という認識の固定化が教会で起きている可能性もある。言外のプレッシャーを感じていた、という声も寄せられた。 信仰の成長に伴って、奉仕が悩みに変わることもあるようだ。Ｑ９の回答から、例えばこのような経緯がうかがえないだろうか。――幼いうちは「お手伝い」の延長として認識し、違和感なく奉仕していた。しかし年齢を重ね、本来奉仕の土台となるはずの信仰が後から築かれてくると、〝家業手伝い〟と「教会に仕える」ことの線引きが今まであいまいだったことに気づく――。 ◇ ◇ ◇ 記者が聞いた、ある牧師の体験談だ。転任先の教会の執務室へ、神学書を搬入し並べる手伝いを息子に頼んだ。すると彼から「家族としての頼みか、牧師と信徒の間の頼みか」との問いが返ってきたという。彼のように受洗している成年なら、教会や牧師との適切な距離を取ることもできる。しかしもっと若ければ、自力でそれを考えるのが難しく、悩みを抱えたままになることもある。 そんな若いＰＫ同士が安心して交わりを持つための、〝ＰＫによるＰＫのための取り組み〟が存在する。次回特集では、アンケートの結果の続きに加え、そのような当事者の生の声も集める。 ほかの質問（次回以降で扱います） Q10. 両親や信徒から、「牧師の子」ということで他の信徒と違う扱いをされた経験はありますか？ 同じように扱ってほしいと思った経験はありますか？ Q11. 両親や信徒から、将来牧師になることを期待された経験はありますか？ Q12. 現在教会に通っている場合、離れたいと思った経験、実際に離れた経験はありますか？ それはどんな理由ですか？ 現在教会に通っていない場合、どんな理由で離れましたか？ Q13. 牧師家庭に生まれて良かったと思うことはありますか？ Q14. 他の家庭と違う、と感じたことはありますか？ どんな違いでしたか？ Q15. 家と教会で建物が共用だったり、近かったりが理由で、困った経験はありますか？ Q16. 親が別の教会に転任、招聘されたことで、困った経験はありますか？ Q17. 牧師家庭の子どもならではの悩みを、相談できる相手はいますか？ それは誰ですか？ Q18. 両親に望んでいること、望んでいたことはありますか？ Q19. 教会に望んでいること、望んでいたことはありますか？ 特集フォーカス・オン「うちの親、牧師です」に関するご意見、ご感想を、編集部までお寄せください。 Mail. cs-edit（@）wlpm.or.jp （@）を@に 10101735関連記事 https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-6ftyzgx8k9fay7es/ https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-a68u9fyftyvmiwcu/

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