福島 – ページ 2 – クリスチャン新聞

「これまでのフクシマと、これから」をテーマに、昨年11月23、24日に行われた「ＪＥＡ宣教フォーラム福島２０２１」から分科会の一部を紹介する。今回はファミリーミニストリー「喪失の中を生きる家族〜私たちが経験している曖昧な喪失〜」。【髙橋昌彦】 JEA宣教フォーラム関連記事はこちら 弱さを抱えながら支援に携わる 講師は「心のケアミニストリータリタ・クム」代表で牧師の岩上真歩子氏。臨床心理士として家族支援を専門とする岩上氏は、講演の主題に先立ち、自らの被災地との関わりを振り返った。 震災発生の年、いわき市で幼稚園やこども園の緊急スクールカウンセラーとして園児やその家族のカウンセリングに携わるものの、園児の卒園を機に３年で福島支援を離れた。その後岡山や熊本の被災地支援に関わったが、震災10年を機に行われた心理学関係の学会に参加して福島の状況を聞くたびに、そこから離れてしまった自分を責める思いが湧いてきて、そこで語られた二つの言葉が胸に刺さったと言う。 「（グリーフケアは）万能感をもって支援をするのでなく、弱さや傷を持ちながら支援をしていくもの」 「自分だけ安全な場所にいて、外から光を暗闇や痛みの中にある人に投げ込むような支援者であってはいけない」 いずれも神様を知らない人たちの言葉だが、臨床をしていくときの基本的な姿勢として受け止め、イエス様こそ、安全な場所を捨てて、私たちの所にきて下さった方であることに思い至った。「自己憐憫（れんびん）に陥るのでなく、弱さを抱えたままで福島と関わりたいと思うようになった。神様のあわれみをいただきながら悲しみを抱えている人たちと共に歩むこと。それを通して支援する側される側が神のかたちに変えられていくのがグリーフケアの目標です」 ゆるしの実践と恵みが解放に 主題の「喪失」を定義する言葉として、岩上氏は「二度と元に戻らない状態」を挙げる。 喪失は、そこに戻ることができない現実に直面させられる体験。喪失のすべてが痛みになるわけではない。思い入れがあればあるほど痛みは強くなり、痛みが強いほど、自分にとっては大事だったものを意味する。喪失は目に見えるものに限らない。仕事を失うことは、その仕事が持っていた信頼・夢・希望・目標を失うことでもある。 喪失による影響は多岐にわたる。心理的（悲しみなど）、身体的（食欲不振など）、社会的（孤独感など）、認知的（注意力低下など）、霊的（生きる意味の喪失など）なものに影響は及び、特に「サバイバーズギルト」が生じやすい。「あの人を救えなかった」、「自分が生き残ったことが申し訳ない」。「死んだ人に比べて自分には生きている価値がない」、などだ。 喪失は、起こり方によっても違う。強いられたのか、自ら引き起こしたのか。そしてそのどちらでもない「曖昧な喪失」がある。ある中学生は津波で父を亡くした。しかし遺体が上がらず見ていないので、「死んだという気持ちが湧かない」「死んだと思っていいのか、どこかで生きていたら申し訳ない」「死んだと認めたら、本当に死んだことになってしまう」と、その思いを吐露した。 このような「はっきりしないまま、解決することも、終結することもない喪失」に向き合うに当たって、岩上氏は五つのことに言及する。 ①人生の再構築・再生：喪失体験は想定外だが、それを取り入れて、人生のストーリーをもう一度構築する。 ②共感：傾聴をする時は、出来事を描写（行為の風景）してもらうとともに、その出来事が語り手にとってどのような意味を持つのか（意味の風景）を聴く。両方の風景を聞いてもらったと思った時、語り手は「共感された」と思い、人生のストーリーを再構築していく。 ③意味を見出す：意味を見出したことで喪失は埋まらないが、前に進む光となる。 ④心の家族：血縁でなくても痛みを抱えつつともに歩む。聖書から養われ、学び、実戦していく時、教会はそうなりうる。 ⑤ゆるし：怒りは、故人、他者、自分、神に及ぶ。この怒りから解放されるまでがグリーフケア。 最後に「怒りが強すぎて、ゆるしの端緒にさえつけない場合がある。しかし、信仰者にとっては、自分も相手も神にゆるされているということが解放への土台となる。キリストの贖いの恵みを土台とし、聖霊の導きの中でゆるしを実践する時、教会は痛みを抱えられる教会として成長し、神のかたちに変えられていく」と結んだ。

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元に戻らないものと向き合う JEA宣教フォーラム福島「喪失の中を生きる家族」

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