米国大統領

「世界最大の好戦国アメリカの戦争責任が問われないのはなぜか？」。野寺博文氏（同盟基督・赤羽聖書教会牧師）は問題提起した。「第32回信州夏期宣教講座」（同実行委員会主催）が8月18、19日、長野県上田市鹿教湯温泉の鹿乃屋旅館で開かれた。テーマは「戦後80年、私に何が関係ある？」。初日の講演Iでは、野寺氏が「『戦争と教会』〜現代における戦争と教会の責任を考える」と題して講演した。 アメリカの戦争とそれを支持してきた教会の責任について語る野寺氏（右上） 講演では、日米開戦から今日に至るまでのアメリカの戦争の歴史を概観し、その戦争にアメリカの教会がどう関わってきたのかを紹介した。 （次ページで、アメリカの軍事介入の概観、構造、教会のかかわりと平和の可能性、など、約2650字） 「アメリカが初めて他国に軍事介入した1801年から今日まで、248件の軍事介入をしている。ソ連崩壊後に介入した戦争は、湾岸戦争（1990～91年）、第一次ソマリア内戦（1992～95）、ボスニア戦争（1992～95）、ハイチ進駐・侵攻（1994～95）、コソボ紛争（1998～99）、アフガ二スタン戦争（2001～2021）、第二次湾岸戦争（2003～11）、第二次ソマリア内戦（2007～）、リビア内戦（2011）、イラク内戦（2014～）、シリア内戦（2014～）、リビア内戦（2015～）。つまり、常に戦争をしていることになる。平和学の創始者であるヨハン・ガルトゥングによれば、『アメリカが他国に軍事介入する目的は、テロとの戦いや人権や民主主義を守るためでもなく、アメリカの覇権主義、経済的利益のため』だ。第二次大戦以後では、37か国で2000万人以上を殺害した」 軍産複合体とネオコン（新保守主義者）についても触れる。「どの戦争にも関わる存在が、軍、軍需産業、政治家、ロビー団体といった軍産複合体と呼ばれる人たちだ。かつては『死の商人』と呼ばれたが、今は『軍産複合体』、それと関わる政治家を『ネオコン』と呼ぶ。戦争なくしては彼らの会社の経営はなり立たない。戦争は不可欠で、平和では困る。それで結託して戦争を起こそうとする。何より問題なのは、そのために戦争をし続けるということだ。そこでネオコンと軍事産業の利害は一致する。ネオコンの理念は、軍需産業を大いに喜ばせ、潤し、大儲けさせることだ」 こうしたアメリカの戦争の歴史に対して、キリスト教会がどう関わってきたかにも触れる。野寺氏は「戦争の歴史は、それをそのまま支持した教会の歴史でもある」と指摘する。 「アメリカは英国ピューリタンが始めた国だ。彼らは『神の国』を実現するという理想を新大陸で実現しようとした。その夢を実現するためには、先住民を殺してもかまわないという意識もあった。やがてその意識は19世紀以降、マニフェスト・ディスティニー（明白な運命）という考えに変質する。アメリカは特別な国で、世界に民主主義を拡大するには、武力を行使してもいいとの考えだ」 こうした価値観の変質と共に、キリスト教も世俗化していったと言う。「アメリカは二度のリバイバルを経験した。一度目はジョナサン・エドワーズが言うように『それはただ神の驚くべきみわざ』という聖霊のみわざだったが、チャールズ・フィニーに代表される二度目は、様々な人間的テクニックで改宗する人の数だけを問題とする実用主義的なものだった。『それはもうキリスト教ではなく新しい宗教だ。キリスト教用語とシンボルを使っていても、根本的には神ではなく人間性を信じているのだ』とJ・G・メイチェンが言う通りである。こうして、キリスト教は人間の都合のいいように解釈され、全く別物の『新しい宗教』へと変質してしまった」 続いて、各時代における戦争に対するキリスト教指導者の発言に触れた。「第一次世界大戦時、リバイバリストのビリー・サンデーは『キリスト教と愛国者は同義語だ。地獄と（国家に対する）裏切り者も同義語だ』、シカゴ大学神学部学長のシェイラー・マシューズは『戦争協力を拒むようなアメリカ人はクリスチャンじゃない』と語った。第二次世界大戦時、聖公会の信者だった共和党党首ハミルトン・フィッシュは『米国を防衛し、戦争に狂った日本人の悪魔どもを全滅させるためなら、私はどんな犠牲も払う』と、太平洋戦争への参加を強烈に支持した」 「冷戦下、無神論の共産主義の脅威に対して反対運動をした牧師が多くいた。その一人が大衆伝道者ビリー・グラハムだ。彼は共産主義を『反神、反キリスト、反アメリカ』と呼び、『その猛毒に対する唯一の解毒剤はキリストの福音だ』と説いた。グラハムはベトナム戦争も支持した。それは『私はベトナムから出ていくよう催促する聖職者に共感できない。どこかで共産主義に歯止めをかけなければならない。それはハワイかベトナムだと信じている』という言葉に表れている」 「イラク戦争が始まると、共和党を支持する教会の保守派はイラク戦争を支持した。2002年、南部バプテスト連合のリチャード・ランドなどがジョージ・ブッシュ大統領に宛てた書簡で、先制攻撃を正当化する神学理論を解説。その書簡に署名したのが、キャンパス・クルセード・フォー・クライスト創始者のビル・ブライト、プリズン・フェローシップ・ミニストリーズ議長のチャールズ・コルソンら4人。ビリー・グラハムの息子フランクリンも『これは戦争を支持するかしないのか問題ではない。今こそ私たち全員が大統領を支持する時だ』と、強力に戦争協力を呼び掛けた」 一方で、野寺氏はアメリカの戦争を批判的に見てきた少数派にも注目した。「第一次世界大戦下、クエーカー、メノナイトといった急進派は、戦争に反対した。教会史家R・ベイントンは兵役を拒否した。第二次大戦下でもクエーカー、メノナイト、アーミッシュといった急進派が戦争に反対。彼らは非軍事的な代替奉仕（農業、医療、救援活動など）に従事した。冷戦下では、マルティン・ルーサー・キング牧師がベトナム戦争に反対した。ラインホルト・ニーバーは、ベトナム戦争を支持するグラハムを批判。『原子爆弾の問題が人々をキリストに回心させることによって解決すると考えている。権力者の近くにいながら、権力者の罪悪を諫（いさ）める預言者の役割を果たしていない』と非難した。また、政治家のハットフィールドは、1973年のホワイトハウスで行われた朝食祈祷会で『アメリカ市民の信じる神は、聖書の神から逸脱して偶像礼拝的だ。ベトナム戦争は国家的な罪で不名誉だ。今日の祈りは悔い改めで始めなければならない』と政権批判した。イラク戦争下では、ハットフィールドの朝食祈祷会でのスピーチ原稿を書いたジム・ウォリスは『サダム・フセインが邪悪な支配者で、多量破壊兵器を持っていたとしても、それだけで先制攻撃できる要件を満たしていない。国際法とキリスト教の正義に照らしても、この戦争は不法な侵略だ』と、戦争に反対した」 その上で、野寺氏はこう結論づけた。「多数派はアメリカの戦争を支持するも、それを批判する少数派も必ずいた。主流派からは外れた異質な急進派は戦争それ自体を批判し、再洗礼派は戦争への協力を500年にわたって拒み続け、社会に少なからぬ影響をもたらしている。教会は、世界の戦争の歴史に大きく関わってきた好戦国アメリカの歴史を知ると同時に、間違っていることは間違っていると批判しなければならない」 関連記事 https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-3uxh8z9vtywdmqvn/ https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-j3cl2bsw8euhwt5u/

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「アメリカの戦争責任問う」野寺氏 第32回信州夏期宣教講座で

「アメリカの戦争責任問う」野寺氏　第32回信州夏期宣教講座で