芸術 – クリスチャン新聞

私には絵心がない。だけど美術は好きである。 留学中や海外旅行の際には美術館を頻繁に訪れた。興味のある特別展には夫婦で行く。古代オリエントの芸術作品も見る。東南アジアのきらびやかな寺院や古代遺跡も訪れる。なんとなく美しい。でも、なぜ美しいのか、どのように描けば、どのように刻んだら美しくなるのか、さっぱり分からない。 「にわか学芸員」になる ところが、神学校で働いていると西洋名画の解説を頼まれることがある。三年に一度、学生を連れて、徳島県鳴門の大塚国際美術館に行く。そこでは、西洋絵画が陶板に原寸大で焼き付けられ、再現展示されている。かつては学芸員が一時間ほど、キリスト教絵画を中心に神学生向けに解説をしてくれていたが、最近はそれがなくなった。しかたないので、何度も来訪している校長が解説をということになったのだ。ところが、絵心のない筆者は、西洋絵画の勉強をしたこともない。そこで、急場しのぎの「にわか学芸員」となるために手に取ったのが今回ご紹介する『絵を見る技術』である（ちなみに、この準備のためにもう一冊読んだのが、佐藤直樹著『東京藝大で教わる西洋美術の見方』）。 『絵を見る技術 名画の構造を読み解く』秋田麻早子著、朝日出版社、2千35円税込、２０１９年、四六判 （次ページで、美を理解する六視点、美に気づくためには） 美を理解する六視点 いや、まさに「目から鱗（うろこ）とは」とはこのことだった。西洋名画が名画なのは、理由がある。素人はボーッと目立つところだけを見ている。「何を観察するべきか」が分かっていない。しかし、美術教育を受けた者は「目の付け所」が違う。相当な時間をかけて、細部にわたって観察する。そして、目立つ箇所をその背景と関連付けて見る。素人が「なんとなく美しい」と表現していることを、論理的に理由を挙げて言葉にできる。教育を通して「観察のためのスキーム（枠組み）」を持っているからだ。 具体的なスキームとして、六つ、挙げられている。まず、絵の主役の探し方。色や大きさや位置や光だけではなく、線がどこに集められているか。二つ目は、絵に存在する経路。鑑賞者の視点を、線や視点によって隅々まで導く経路が仕組まれている。角を避けて巡るルートや、一点から放射線状に広がる動きなどが見える。三つ目は、絵のバランス。絵には縦、横、斜めの構造線が仕込まれている。構造線が斜めだと何か動きそうな絵画となる。左右のバランスが取れている絵画が多い。 四つ目は、色。17世紀までは絵の具の多くが土由来で、特に青は高価だった。そのために、青は最も重要な箇所にしか使われない（マリアの服が青で描かれているのには、こうした背景がある）。色にもスキームがあるし、はやり廃りがある。五つ目は構図。上下は上下関係。左右は、画面の右側（鑑賞者から見て左）の人物の序列が上。一定のパターンがある。等分割して考えることも大切（スマホの写真でも三分割構図の法則がある）。パターンを踏まえれば、バランスの取れた魅力的な絵になる。最後は統一感。輪郭線の有無や仕上げの質感、形の反復や一定の傾きによって生み出される。 美に気づくためには 本書は、これらのスキームを具体例を交えて説明してくれるので、有名な西洋絵画について、なぜそれを「美しい」と感じるのか、その理由がよく分かる。次に美術館に行った時に、これまでとは違った視点から絵画を楽しむことができる。なぜ美しいか、と問われたとき、こんな秩序や構造があるから美しいのだ、と今までよりも少しだけ、ことばにすることができる。西洋絵画にはある一定の秩序があるからだ。 しかし、「西洋絵画の美の感覚は今古東西のあらゆる芸術に当てはまるのだろうか」とも考える。時代や地域を越えて、あらゆる人が「美しい」と感じるものがあるのだろうか。少なくとも筆者はそう思わない。この本の知識を用いても、その美しさを見いだせない芸術作品もある。でも、ある地域のある時代の人はそれを「美」と考え、宝物のように大切にしてきた。 「美」とはタペストリーのようなものなのかもしれない。表側を見れば「美しい」と理解出来るものが浮かび上がってくる。しかし、裏側はごちゃごちゃしていてどう考えても美しいとは思えない。美を美として理解出来る視点（スキーム）を持つまでは、裏側を見ているのでその美しさに気がつかないでいる。独特の「美のスキーム」を引き受けてはじめて、それに気づく。 「神のなさることは、すべて時にかなって美しい」（伝道者3・11）。神のわざは美しい。しかし、人はその美を理解できない。タペストリーの裏側を見ているからだろう。 様々な芸術を美しいと見なすことのできる多様な視点を、そして訳の分からない人生に美しい神のわざを見出す視点を持つ者となりたい。

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美を理解する視点（スキーム）普段着の読書 牧師編 第4回 鎌野直人

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