韓国 – ページ 4 – クリスチャン新聞

米国のＢＬＭ（ブラック・ライブズ・マター）運動、香港、タイ、ロシア…の民主化運動など、世界で人々が蜂起する運動が連鎖する。このような中、米国の「黒人神学」が公民権運動前後の社会背景と共に注目された。香港では有志の牧師らで「香港２０２０福音宣言」が発表された。東アジアにおいては、１９６０～70年代の韓国民主化運動の中で生まれた「民衆神学」が先例となりそうだ。その聖書解釈、教会論などには様々な議論が交わされてきたが、その神学を生み出した背景にまず注目したい。 明治学院大学キリスト教研究所は、韓国民衆神学会会長の崔亨黙（チェ・ヒョンムク）氏を招いたオンライン講演会を２０２０年12月19日に開催。崔氏は「韓国民衆神学の歴史と現在」と題して語った。 崔氏は「民衆神学」の萌芽として、１９７３年の「韓国キリスト者宣言」を挙げた。朴正煕（パク・チョンヒ）政権の経済開発、権威主義に抵抗を示した宣言で、「圧迫された人々」「貧しい人々」と共に生きる立場を告白したものだ。当時、政権に抵抗して焼身自殺をした労働運動家、全泰壱（チョン・テイル）の事件など、社会に衝撃を与える事件が起きていた。75年には安炳茂（アン・ビョンム）、徐南同（ソ・ナムドン）らが相次いで「民衆神学」について著作を刊行。79年に韓国で開かれたアジアキリスト教協議会神学協議会でも「民衆神学」が主題になった。 崔氏は、「『民衆』は朝鮮の封建体制解体期、すなわち近代的秩序が胎動する時期に起源」があると指摘。封建体制下では、支配層に対して「人民」が存在したが、「人民」は統治の主体ではなく、「統治者の世話を受けなければならない『赤子』」とみなされる存在だった。一方「民衆」は「統治の客体から統治の主体として意識の転換を成し遂げた新しい人民」だ。「17世紀以降徐々に進行した封建体制の中で、人民は主体を自覚するようになり、19世紀の農民反乱の時代には『民衆』という新しい名前が登場。さらに１９６０年代後半以降に本格的な産業化と民主化の過程で明確に自分の役割を見せた勢力となった」 「民衆」が「市民」と異なるのは、その複合的な構成だ。崔氏はこう説明する。「韓国社会も資本制社会とともに、ブルジョア市民階級とそれに対立する労働者階級を形成した。ただし韓国の場合は、既存の封建体制の秩序が一部温存された複合的社会形態（社会構成体）だった。外国勢力から強制的に国際的な資本制秩序に編入された歴史過程があり、外国勢力の支配が終息した以後にも相当部分その影響を受ける複合的な経路をたどった」 民衆神学を推進した徐は、「民衆」の意義を「生活価値を生産して世界を変革させて歴史を推進してきた実質的主体であり、支配権力から疎外・抑圧されて賤民（せんみん）・罪人として転落し」たが、「歴史の発展によって自分の外化物である権力を元のところに戻して神の公義の回復を主体的に導いて、それによって救いを成就するようになった」と説明する。 同じく民衆神学を進めた安は「民衆事件」を強調する。「二千年前ガリラヤの歴史的現場で起きたただ一度きりの事件に終わらず、あたかも火山脈が噴出するように絶えず歴史の中で再現される」ものとした。全泰壱焼身事件についても「イエス事件」としてとらえた。 「民衆事件」の重要な焦点は「民衆の自己超越の性格」だ。全泰壱事件の場合は、「自分の苦痛の問題を自分個人に限定させないで労働者全体の問題に昇華させたところで民衆的メシア像が現れる」。崔氏は、「全泰壱がすなわちメシアということを意味するのではない。全泰壱事件の中に民衆のメシア的力能が現存するという意味」であり、イエスと民衆の同一視は、「世間に誤解されているようにいわゆる存在論的同一視ではなく、徹底して事件の地平の中での同一視」だと強調した。 安の民衆の解釈は、イエスの周辺に登場する「オクロス」（「人々」などと訳されている）の理解を土台にする。「オクロス」は、「特定の集団への帰属性を持つことができなかった多様な人々」であり、「病人」「飢えた人」「徴税人」「罪人」「娼婦（しょうふ）」などで具体化されている。それらの人々は通常「罪人」と呼ばれ、「既存の体制から排除」されるが、「イエスはその人々を無条件に包容して、神の国の主体であると宣言した」。このようにして民衆神学の民衆は、「今日の世界で排除されているが、かえってそのことで新しい世界の主役になることができる主体」として理解された。 次回は民衆神学のその後、現在について。（つづく）【高橋良知】

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「民衆神学の歴史と現在」崔氏講演から（上） 「排除」から「主体」へ 明治学院大学キリスト教研究所講演会

「民衆神学の歴史と現在」崔氏講演から（上）　「排除」から「主体」へ　明治学院大学キリスト教研究所講演会