「本屋」の存在意義③ 書店自ら本を選びたい

【書店】本を販売する小売店【本屋】本を売る人たち

前回

店頭の社会的影響 「本屋」の存在意義②
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「左」「右」の問題ではない

 『私は本屋が好きでした─あふれるヘイト本、つくって売るまでの舞台裏』(永江朗著、太郎次郎社エディタス)の出版記念連続トークッセッション(「教文館ナルニア国」主催)3回目は、自身コリアンルーツをもち、現代を生きる在日コリアンの心情を細やかに描く深沢潮さん(作家)がゲストで登場。

 

写真=深沢潮著『緑と赤』(小学館、2019)は2つの国の帰属に揺れる現代の学生たちの物語。『海を抱いて月に眠る』(文藝春秋、2018)は自身の父をモデルに戦後の在日コリアンの歴史を映す

 コリアンタウンとして知られる東京・大久保でヘイトスピーチに遭遇したとき、自身としては「またか」というあきらめの気持ちだったという。「それ以上にショックだったのは、韓国ショップの店員たちの様子。ヘイトに触れようとせず、死んだような目でやりすごしていたのです」

 ヘイト本については、「恐怖を感じる」と実感を述べた。「書店によっては、『リベラルな本』を横においてバランスをとろうとしているが、左右の思想の問題ではない。実際にその本やタイトルで傷つく人がいる。凶器のようなものを売っていることが問題です」

 深沢さん自身、リレー連載をしていた雑誌でヘイト記事が出て、連載を降りた経験がある。「編集者も気づいていない場合がある。声を上げていかないといけない。ただし、作家と出版社には、上下関係があり、作家は声を上げづらい。他の作家からも『左翼的』と言われたことがある」と話した。

 永江さんは、「ヘイトが横行すると、行き着くのは『殺してもかまわない』という思想。これは実際に戦前に起きた。ヘイト本を出すことへのうしろめたさ、原罪意識はないのか」。カトリックの洗礼を受けている深沢さんは、「実際、出版界でうしろめたさがない様子もみられる」と語った。

 一方、韓国フェミニズム文学が日本で流行している例を挙げて「正しいことを正しいと言う文学への需要もある」と期待を述べた。

(次ページで小さな本屋の奮闘)