
この『聖書解釈のリテラシー』は、読者のリテラシーが問われる本である。ふさわしく読み解いていくならば、読者のリテラシーが鍛えられる内容だ、と言い換えても良い。
『聖書解釈のリテラシー』というテクストの意図は、どこにあるのか? 著者である南野浩則氏の歴史的・文化的背景はどのようなものなのか? また、彼はどのようなイデオロギーを抱いているのか?
そして、本書を世に出したいのちのことば社には、どのような政治的意図があるのか?
そのような問いを持って、本書に向き合うならば、解釈するということについて、実践的に学ぶことができるだろう。
ただ、生半可な気持ちで本書を手に取ることは、あまりお勧めしない。というのも、著者は平然とそして矢継ぎ早に、読者の思想や価値観を揺さぶってくるからだ。人によっては、信仰的な危機に直面してしまうかもしれない。かのシュライアマハーは、「解釈は著者自身よりも著者を理解する働きだ」と言ったそうだが、それぐらいの覚悟がなければ、本書を読みこなすことは難しいだろう。
ただ、そうは言っても、自分についてあまり語りたがらないシャイな南野氏について、南野氏以上に理解することは至難の業である。
そこで、著者と十年来の付き合いのある私が、彼の特徴・傾向について紹介させていただきたいと思う。
まず、南野氏は福音派教会の中で通俗的に受け入れられている解釈よりも、前時代の聖書批評学において「定説」と捉えられていた見解を好む傾向がある。彼の新約聖書記者の旧約引用の理解やネヘミヤ記の位置付けなどは、その典型である。
また、聖書記者同士を対立的に捉えがちである。これは、それぞれの書物の独自性を見抜くという意味では意義深いことだが、反面、書物同士が相互補完的な関係にあることを見落としてしまいかねない。
そして、共同体的視点が希薄であることが、南野氏の言動を貫く一つの特徴である。もちろん、聖書記者が特定の共同体に属し、その共同体のために物を書いたということは認めている。しかし、共同体のために書かれた書物は、共同体の中で読まれなくてはいけないという意識が乏しいように思う。そのことは、福音派内の先行研究をあまり顧みない彼の態度にも現れているように思う。
最後に、周辺からの視点を持っているのは、彼の最大の強みである。無自覚な構造的な暴力にメスを入れる彼の物言いから教えられることは多い。ただ、日本の福音派の中では、すでに自分がエスタブリッシュメントの側にいることを、南野氏はそろそろ自覚した方が良いと思っているが…
それでは、このような基礎情報を押さえた上で、本書を読んだ後に、疑問で頭がいっぱいになった場合はどうすれば良いのか。同出版社から出ているティンデル注解書シリーズの一つ、R・T・フランス著『マタイの福音書』を読むことをお勧めする。もちろんすべての問いに答えてくれるわけではないが、重要な原則を学べるはずである。(評・老松望=大阪聖書学院教師)
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