「平和について簡単に語ってはいけない」——最近、私はそう考えるようになった。平和を阻む問題の複雑さへの戸惑い、当事者の苦痛を理解しきれない限界、そして自分の意見を表明することへの恐れが、そうした思いを生んでいるのかもしれない。
マルティン・ニーメラーは、ナチスに抵抗した英雄であり、同時に弱さを持った人間でもある。牧師家庭に生まれ、ドイツ帝国海軍軍人を経て牧師となった彼は、信仰と祖国愛を一体として生きていた。国家の危機にナチスが台頭すると、当初はこれを歓迎し積極的に支持した。しかし、ナチスが教会を攻撃し始めると激しく抵抗し、ヒトラーの「私的囚人」として8年間の投獄生活を送った。戦後は世界的な平和運動の象徴的存在となった。
興味深いのは、彼の信仰と思想の変遷である。筆者によれば、ナチスに抵抗した動機は主にドイツ・プロテスタント教会を守るためであり、ファシズムや反ユダヤ主義そのものを批判していたわけではなかった。しかし戦後、彼は根本的な転換を遂げる。ユダヤ人虐殺に神学や教会が責任を負っていたこと、そして「反対しない罪」「看過する罪」があることを認めたのだ。さらに世界各地での講演を通してさまざまな人種の人々と関わることで、かつての偏見を克服していった。
筆者は、彼が完全に国家主義を脱却できなかった限界も指摘している。同様の道を歩んだ日本に生きるキリスト者にとって、これは他人事ではない。しかし注目すべきは、一人の罪人が真の平和を語るまでには長い道のりがあったということだ。自分の視点の限界を認め、過去や先人から学ぶ謙虚さの重要性を教えられる。
「自国ファースト」が当たり前のように語られる現代において、ニーメラーの生涯を振り返る意義は大きい。彼が最終的にたどり着いた言葉を紹介したい。
「我々は長く、民族対民族、イデオロギー対イデオロギー、人種対人種という観念の中で生きてきた。しかし今日、人類の真の敵は不正、貧困、病気、民族的自負、権力の乱用、そしてこれらを生み出す憎しみと戦争である。これらへの危機感を失うことは、人間性そのものの否定だ。人類という家族の中で争うのではなく、これらの悪と闘うことこそ、歴史の神と共に立つことなのである」
(評・末松謙一=日本福音キリスト教会連合 栄聖書教会教会員)
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