高校銃乱射事件で共に息子を失った被害者と加害者の両親が顔と顔を合わせる。ほぼ全編、密室4人の会話だけで進行…。そんなスリリングな映画「対峙」が、2月10日に公開される。【中田 朗】

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アメリカの高校で、生徒による銃乱射事件が勃発し、多くの同級生が殺され、犯人の少年も構内で自ら命を絶った。それから6年後、息子の死を受け入れられないジェイとゲイル夫妻は、加害者の両親であるリチャードとリンダに会い話をするという行動に出る。

舞台は、美しい並木通りに立つ小さな教会の一室。やがて二組の男女が到着。「お元気ですか?」「おかげさまで」。ぎこちなく会話を交わす。

仲介役の女性が部屋を出る。四人は丸テーブルを囲んで座り、当たり障りのない会話から始める。やがて、「会ってくださり感謝します」と、ジェイが本題に入る。彼に促され、妻のゲイルは息子と娘の写真を取り出し、リンダとリチャードに見せる。「美しい娘さん!」。今は離れて暮らす元夫婦の二人は、そう口にする。だが、「最後のクリスマスよ」と言うゲイルのひと言に、リンダは涙を流し、取り乱す。

「息子さんについて覚えていることを話してください」と切り出すゲイル。「なぜ?」と尋ねるリチャードに、「起きた理由を知りたい。それを聞く必要がある」とゲイル。「もちろん」と応じるリンダ。こうして、4人の対話は始まる。それぞれが冷静に、正直に話し出すが、悲しみ、怒り、後悔、絶望の感情があふれ出し、緊迫した展開へ。だが、その対話は予想外の結末へと導かれる。

出発点は、2018年2月に起こったパークランドの高校での銃乱射事件。同作品が初監督となるフラン・クランツは、悲劇を乗り越えて前に進む方法を見出した遺族の報告を目にし、衝撃を受けた。「赦し、深い悲しみ、喪失、和解、人間同士のつながりが持つ力という、複数のテーマを探求したいと思った」と、脚本を書いた。

映画では、「会話のすべてが、スクリーン上にリアルタイムで展開していくようにしたい」と、回想シーンや便利な映画的手法は一切使わず、会話のみで構成。実際、会話のみのほうが想像力をかき立て、事件当時の状況やそれぞれの心情が浮き彫りにされる。4人の俳優の迫真の演技からは、目が離せない。

舞台を教会にしたのは、「対話はスピリチュアルな場所でしたいと思ったから」。ラストシーンは、まさにスピリチュアルを象徴する演出で終わる。クリスチャンにとっては涙なしには見られないシーンだ。
2月10日からTОHОシネマズシャンテほか全国ロードショー。

© 2020 7ECCLES STREET LLC 監督・脚本/フラン・クランツ。出演/リード・バーニー(リチャード)、アン・ダウド(リンダ)、ジェイソン・アイザックス(ジェイ)、マーサ・プリンプトン(ゲイル)
2021年アメリカ / 英語 / 111分 / ビスタ / カラー / 5.1ch / 映倫G  配給:トランスフォーマー https://transformer.co.jp/m/taiji/ Twitter: @taiji_movie

2023年02月12日号 02面掲載記事)