「北朝鮮宣教フォーラム」脱北者の証し③ 主体思想は人民を縛る偶像礼拝 罪人である人間は自分を変えられない
北朝鮮で逮捕され、死刑判決を受けた韓国系カナダ人ヒョンス・リム牧師。949日間の収監と奇跡的な解放をつづった手記が昨年12月に邦訳出版された。リム氏の来日にあわせて開催された「『だれを私は恐れよう』出版記念 北朝鮮宣教フォーラム」(同実行委員会主催)から、当日参加した北朝鮮「脱北者」の証しを紹介する。
◇ ◆ ◇
北朝鮮の独裁政治体制を正当化する理論として、「自主、自立、自衛」を掲げる「主体思想」がある。現在60代で韓国の神学校に学ぶB氏は、40年以上にわたり教育され、その思想に縛られていた、と語る。
―1970年代に金日成により広められたその思想は、革命の主体は人民であるとしながら、人の上に国、国の上に党、党の上に首領がいる思想であり、生活すべての領域を支配し、金首領の栄光を現し、命を捧げ、その思想を末代にまで伝える、というもの。
首領を拝む偶像礼拝。国民はその思想が身に付いているか、いかに人生に適用しているか、強制的に毎週分かち合い、徹底的に教育された。それらはすべてキリスト教の模倣。福音にふれてそのことに気付いた。
私もその教育を受けた者であり、自分の力でことをなし、党に献身するのが価値ある人生だと信じて疑わなかった。北朝鮮の人に福音を語っても、自分が主体だから、福音はなかなか入らない。「教会を信じてどうする」「自分を信じて頑張って生活してこそ人生何とかなる」。皆そう言うだろう。
しかし、私は脱北して、神のみことばからその間違いに気づいた。人間の創造性、自主性、自発性は全て神から出ている。創造者を知って、そのことを理解した。罪人である人間に自分を変えることはできない。この歳になって神学の学びは難しい。自分の力でできることは一つもないと痛感した。弱さを認める中で、聖霊の力で学ばせてもらっている。
私には息子と娘がいる。かつては、夫を失いながら二人の子を育てられたのは党のおかげ、と思っていたが、軍隊に入隊した息子に面会に行き、骨と皮になって、服の上からあばら骨を数えられるほどになっている姿を見て、考えが変わった。食事も医療も受けられない惨状を見て、主体思想がインチキだと分かってきた。金正日が死んだ時、民は混乱に陥った。貨幣改革が行われ、息子の結婚式にと思って、キムチのかめの底に隠していた100万ウォンの価値が、10分の一になってしまった。
そして私は脱北した。中国に渡ってからは、服の工場で働いた。中国人の2倍は働いたが、賃金は半分以下だった。空腹はつらく感じたが、それ以上につらかったのは、私たちを蔑む脱北ブローカーの眼だった。3年ほどでうつ病になりかけた。運命をはかなみ、両親を恨み、死んでしまいたいという気持ちと闘い、それでも働いた。
その果てで神と出会った、、、、、、
(2023年02月26日号 07面掲載記事)