判決が下ったあと、廊下のドアから自分を覗き見る克の視線に気づく夏奈 (C)2022 December Production Committee. All rights reserved

犯行当時17歳で懲役刑の判決を受けた女性囚が、7年後に起こした再審裁判を舞台に裁判での正義とは、過ちを犯した人間の悔悟を被害者遺族は赦すことができるだろうか。加害者、被害者の肉親、弁護士と検察官それぞれが罪と罰、遺恨と赦しと向き合う。昨年4月に改定少年法が施行され未成年だった18歳・19歳も「特定少年」として少年法を適用されるが家庭裁判所から検察官送致(逆送)では死刑判決なども可能になった少年法に対してしても、罪の悔悛と更生にあらためて関心を向けさせてくれる真摯な裁判劇。

加害者と被害者の両親
三者それぞれの視点で描写

福田夏奈(松浦りょう)は高校生の時、同じクラスの樋口恵未(成海花音)を川の岸辺で刺殺。少年犯罪だが逆送され懲役20年の刑を受けた。被害者の父親・克(尚玄)は愛娘の命を奪われて以後、喪失感から立ち直れずに酒浸りの日々。母親・澄子(MEGUMI)は、そんな克と離婚し、グループセラピーで知り合った岡崎直樹(藤森慎吾)と再婚した。判決から7年後、克と澄子に裁判所から夏奈が佐藤匠弁護士(生津徹)をとおして事実誤認の再審裁判を起こした連絡が届く。殺人犯・夏奈への怨恨に怒りを顕わにする克は、澄子を説得し共に証人に立つ。殺害した事実は認めたうえで悔悛の思いを語り、自分の過ちと悔悟の想いを同じ苦しみを持つ少年たちの更生のために活かしたいという夏奈。克はまったく受け入れられず当初の刑期に服するのが当然と言い放つ。加害者・被害者家族の心情とはことなる法律面での論証で展開する疲れ、証人を降りた澄子。そう決断した澄子に夏奈は、直接会って話したいと弁護士を通して申し出る…。

再審の法廷に証人として出廷する被害者の両親・克と澄子 (C)2022 December Production Committee. All rights reserved

心の牢獄に囚われて
いる3人の心模様

犯した過ちを直視して悔悛の想いを述べて更生したいと願う加害者を赦せるか。そのテーマで見れば主人公は克の心情と行動なのだろう。だが、物語は加害者・夏奈と克の元妻・澄子の心情と行動にも光を当て丁寧に描いていく。アンシュル・チョウハン監督は「7年前に起こった殺人事件で刑務所の檻の中に入れられたのは夏奈ひとりですが、被害者遺族の克と澄子も精神的な“牢獄”に閉じ込められている」と語っている。赦されることの大きな価値、赦すことの難しさを考えさせられる。【遠山清一】

監督:アンシュル・チョウハン 2022年/98分/日本/日本語/映倫:G/英語題:DECEMBER 配給:彩プロ 2023年3月18日[土]よりユーロスペースほか全国順次公開。
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*AWARD*
2022年:釜山国際映画祭2022キム・ジソク賞ノミネート。 2023年:ヨーテボリ映画祭2023正式出品作品。ウディネ・ファーイースト映画祭2023コンペティション部門ノミネート作品。第18回大阪アジアン映画祭コンペティション部門出品作品。