【レビュー】「痛む家族・教会の過去」を贖う希望と勇気 『光の注がれた場所 フィリップ・ヤンシー自伝』評・鈴木茂
本書はヤンシー氏の初めての自叙伝です。彼はこれまで多くの本を書かれましたが、どの著作にも織り込まれているテーマは「苦しみと恵み」です。本書を読むと、彼の著作のほとんどが自身の苦しみの体験から生み出されたものであるとわかります。
取り扱われている信仰上の疑問やテーマは、家族や教会の中で起きた出来事の中で疑問に感じてきたことが素材となっています。彼の兄は、家族や教会に対する怒りによって神に反発することで苦しみを避け、彼の母は「霊的化した信仰理解」によって、過去の傷、恥、罪悪感や痛みを片づけてしまいました。その結果、兄は自由を失ってしまい、一方、母親は、痛みや悲しみ、また夫の死にまつわる罪悪感によって、自分だけでなく自分の子どもたちをも苦しめてしまいます。
しかし、このようなことを著者は、神の恵みという視点から回想します。「苦しい人生でも、神の愛なる光はいつも注がれていることに気づかされる」と。苦しみを悪いものとしながらも、神がそれを贖われることを著者は書かずにいられないのです。
「神の驚くべき恵み」を憐(あわ)れみによって体験したことで、家族や教会での出来事を著者は正直に書き記しました。読んでいてわかるのですが、目的は非難ではなく、神による贖いです。神の光が注がれたところから、修復と回復のための解体作業が徐々に始まるのです。闇の中にある過去は、神の光が注がれることによって少しずつ明るみに出されて解体され、そして同時に神によって癒やしが起こり、再統合されていきます。神は問題を取り除かれるのではなく、贖われるのです。
極端なファンダメンタリズムに大きな影響を受けた家族と教会で苦しんだことは事実であっても、「神の御手の中で人生の一連の出来事があり、その出来事に対する選択によって、私たちの将来も形づくられていくのではないか」という思いが強くなった、と著者は言います。そして最後に「何一つ無駄はなかった」と。
ヤンシー氏は、読者の私にも神の贖いという視点から、自分自身の人生を振り返る希望と勇気を与えてくださいました。
(評・鈴木茂=保守バプ・仙台聖書バプテスト教会牧師)
『光の注がれた場所 フィリップ・ヤンシー自伝』フィリップ・ヤンシー著 山下章子訳、
いのちのことば社
2,860円税込、四六判
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