‟ファッションを楽しみながら持続可能な未来を創る” ファッション界では相容れない二つの思考を両立させたいと提唱するサステナブル・ファッションのリーダー的デザイナーのエミリー・パウエル  (C)2022 Fashion Reimagined Ltd

春夏秋冬それぞれのモードコレクションをめまぐるしく発信するファッション業界。その華やかさの陰に環境破壊や労働環境などの社会問題がよこたわり、世界に大きな影響を与えていると警鐘を打ち鳴らそうと、英国のラグジュアリー・ブランド“Mother of Pearl”(MOP)クリエイティブ・デザイナーのエイミー・パウニーは、有機的で追跡可能な素材によるコレクション“No Frills”(飾りは要らない)を起ち上げ、持続可能(サステナブル)なファッションの再考をうながす。ファッション業界の常識を打ち破り、ファッションがサステナビリティに社会的責任を果たせる道を拓いたエイミー・パウニーとMOPチームの変革への旅路を伝えるドキュメンタリー。

ファッション業界の華やかさの
陰にあるいびつな現実を見つめて

エイミーは、英国の片田舎で環境活動家の両親とトレーラーハウスでガスも水道もない風力発電暮らしというオフグリッドな環境で妹と育った。アートに関心を持っていたエイミーは、ロンドンのキングストン大学でファッションデザインを専攻。卒業制作のテーマは“持続可能性”でエコ素材のニットを発表。卒業後は、MOPにアシスタントとして入社、2015年にクリエイティブ・デザイナーに就任した。

エイミーは、大量生産大量消費が当然とされる当時のファッション産業に疑問をもっていた。1980年代と比較して現代の人々は3倍以上の服を購入し、毎年作られる服は兆単位で、その5分の3が購入した年に廃棄されている。さらに、ファッション業界を一国に例えると、二酸化炭素の排出量は米国、中国に次いで世界第3位。デニムパンツ1本作るのに千500リットルの水を使う(人間1人が飲む2年分の水に相当)。縫製工場労働者で賃金だけで生活できるのは2%程度など、ファッション業界の華やかさの陰にあるいびつな現実を見つめるエイミー。

17年4月、エイミーがサステナブルなブランドを起ち上げを決心する出来事に遭遇する。英国ファッション協議会とVOGUE主催の英国最優秀新人デザイナーに選ばれ、10万ポンドの高額賞金を獲得。その賞金を基に商品開発のクロエ・マークスらMOPチームとともにサスティブルなブランド“No Frills”を起ち上げ、18年9月のロンドン・ファッション・ウィークでコレクション発表することを目標に掲げる。

ウルグアイで高品質な天然ウールを生産するラナス・トリニダード社の責任者ペドロ・オテギ(左)らと出会えたエミリーとクロエは、理念を共有し合えることに喜びを隠せない。 (C)2022 Fashion Reimagined Ltd

年に4シーズンの新作コレクションを発表し、大量生産大量消費がファッション業界の常識。だがエイミーは、MOPの新作発表を2シーズンにして生産過多を縮小するビジネスモデルへ移行し、地球資源の負担軽減の使命を果たそうとする。一方、コレクションの作成に向けては予想外に困難が多い。エイミーらは、プラスチックごみの原因になる合成素材を使わず、すべての有機素材と製造過程が追跡可能な商品ブランドを目指している。だが、コスト高と大量生産がネックになるため国内には条件を満たす企業は見当たらない。様々な業者に当たり、紹介されるとエイミーとクロエはオーストリアや中南米へも現地へ行き自分たちの目で見て、意見交換し理念の共通理解に努める。そうして、出会えたのはウルグアイと高品質天然ウールの生産企業とペルーの紡績工場。それぞれの責任者や働いている人たちとエイミーらが出会うまでの旅は、なんとも感動的。有機素材が決まってからデザインする方針でいたエイミーらに、発表期限の3ヶ月前になっての製作が間に合わず辞退したいとの連絡が入った。それでもあきらめないエイミーとチーム信念に気づきからエールへと心が動かされる。

スタイリッシュ
に地球を救おう

新ブランド“No Frills”のコレクション発表はなんとか期日に間に合わせることができた。ファッション界の常識を超越したビジネスモデルに批判もあったが、ロンドン・ファッション・ウィーク唯一のサステナブル・ブランドへの注目は高かった。マスコミのとどまらず熱心な環境保護活動家としても知られていたにチャールズ皇太子(当時)コラボレーション企画も実現する。エイミー・パウニーは、ロンドン・ファッション・ウィークでサステナブル・ファッションデザイナーとして第一声を挙げ。ファッションメーカーやブランドのアウトレット店が盛隆の現状では、サステナブル・ファッションへの関心は少数派かもしれない。だが、海洋マイクロ・プラスチックごみの35%が合成素材の衣類の洗濯が原因といわれているなかで、何を着るかが個々人に問いかけられていることも確かなこと。エイミーの誕生日に、母親が贈った詩の一節「スタイリッシュに地球を救おう」が響いてくる。【遠山清一】

監督:ベッキー・ハトナー 2022年/100分/イギリス/英語/映倫:G/原題:Fashion Reimagined 配給:フラッグ 2023年9月22日[金]よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか公開。
公式サイト http://fashion-reimagine.jp
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