【書評】がんばることに疲れた人のための「神学」 『「信じても苦しい」が終わるとき』評・中村佐知

 著者はこれまでの著作で、信仰を持ちながらなおも苦しさや辛(つら)さを覚える人たちに、その苦しみこそが神との出会いの場になりうることを優しく語ってきた。本書は、同じ優しさを保ちつつ、中世のカトリックの神秘家である十字架の聖ヨハネの霊性思想を土台とし、著者独自の切り口で疲れた人のための霊性神学を構築していく。


 聖ヨハネの思想は、カトリックの霊性神学者の間でも難解なことで有名である。その思想を、プロテスタントの著者が自身の信仰の歩みと牧会経験を踏まえて再解釈し、現代に生きる信仰者の体験に寄り添う実践的な形で提示した。大変意欲的な試みである。


 聖ヨハネの中心には、神は人間の感覚や理性、意志といった能力によって把握される対象ではなく、それらが沈黙させられていくときに、神のほうから人間の霊魂に触れてくださる、という確信がある。著者はそれを、「超越的信仰」「神から始まる信仰」という言葉で絶妙に表現する。それは人が神を探し、理解し、到達することによる信仰ではなく、暗闇の中で神がすでに始めておられる働きを受け取る、という受動的信仰への転換でもある。


 そして、聖ヨハネの「暗夜」の概念をもとに信仰の歩みを段階的に描き、「霊魂(本質的な私)」が解放されていく道筋を示す。これにより、読者は自らの挫折や停滞や苦悩を、「失敗」ではなく「通過点」として受けとめ直すことができるだろう。


 「もっと祈らないと」「もっと聖書を読まないと」「もっと奉仕しないと」……そういった思いに囚(とら)われ、疲弊している信仰者は少なくないと思う。そのような人々に対して、著者は彼らの体験も努力も否定することなく、繰り返し語りかける。「できなくてもいい」「神さまがいないと生きていけない、と告白することこそが信仰だ」と。この姿勢は、結果重視の現代社会における信仰のあり方への重要な問いかけでもある。


 また、「弱さでつながる」という共同体のビジョンも本書の大きな貢献だ。著者は自身の障害や葛藤の体験を率直に語りながら、強さや成功ではなく弱さを分かち合うことでこそ真の愛が生まれると説く。互いの失敗や苦悩を隠さず共有できる教会のあり方は、多くの読者にとって希望となるだろう。


 本書を開いたとき、目に入る用語や人名が難解に思えたとしても、敬遠せず読み進めていただきたい。そこに差し出されているメッセージは、「がんばること」に疲れてしまった人にとって、まさに福音である。
(評・中村佐知=翻訳者・霊的同伴者)

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