映画「ビヨンド・ユートピア脱北」施設訪ねるツアー開催

困難者の声に聞く重要性認識 北朝鮮問題に関心を持つきっかけに

昨年2月に日本国内でも公開され、多くの注目を集めたドキュメンタリー映画「ビヨンド・ユートピア脱北」。その脱北者支援施設などを訪問するツアー「ビヨンドユートピアの世界と芸能教会訪問」(企画:いのちのことば社、クリスチャン映画を成功させる会)が4月25日から28日まで行われた。ツアーチャプレン、通訳、ガイドを務めた妹尾光樹氏(純福音成田教会牧師)のレポートを届ける。

脱北者支援施設「ヘブロンの山地 カレブの園」入口付近

映画 「ビヨンド・ユートピア脱北」は北朝鮮からの脱北者の実話をもとにしたストーリーで、そのリアルな描写と深いメッセージ性から、多くの人々の心に訴えかけるものがありました。
公開に先立ち、2023年12月には、この映画の主人公とも呼べるNPО法人の代表者であるキム・ソンウン牧師が来日し、日本記者クラブで記者会見を行いました。彼の体験談や脱北の現状についての詳細な話は、多くのメディアで取り上げられ、クリスチャンメディアの共同記者会見も開かれて、大きな関心を集めました。
今回の企画は、映画を通じて北朝鮮の現状と問題意識を深く理解することを目的としており、私も同行させていただきました。遠く九州や関西から、関東からも多くの参加者が集まり、共に韓国の仁川空港から車で90分、アサン市にある脱北者支援施設「ヘブロンの山地 カレブの園」へと向かいました。

施設内を案内するキム牧師

出発前、参加者全員で礼拝と賛美、祈りの時間を持ち、バスの中では韓国の情勢の安定や北朝鮮問題の解決のために心を合わせて祈りを捧げました。この時間は、私たちにはとても恵まれたものであり、信仰を深める貴重なひと時となりました。
背骨の骨折など満身創痍(そうい)になりながら脱北者千44人(今年5月初め時点)を助けてきたキム牧師の使命感の根底には何があるのか、参加者全員でその思いを共有しながら施設へと向かいました。
キム牧師の使命は、命をかけて険しい山河を越え、多くの人々を北朝鮮から脱出させるというもので、その背後には中朝国境で出会った一人の少年のひと言が大きなきっかけとなっていたのです。
その少年の言葉は「同じ民族として私たちを助けてください」というもので、シンプルながらも非常に重いものでした。このひと言で、キム牧師の活動が一段と力強いものとなったのです。
このエピソードは、聖書の中のパウロがマケドニア人の幻を見てヨーロッパへの福音伝道を決意した出来事と重なります。

煮炊きをする脱北者(右)

「その夜、パウロは幻を見た。一人のマケドニア人が立って、『マケドニアに渡って来て、私たちを助けてください』と懇願するのであった」(使徒16・9)
この聖書の言葉は、私たちにとっても深い意味を持ち、各地で困難に直面している人々の声に耳を傾ける重要性を再認識させてくれるものです。
また、キム牧師は先月、米国の国連本部において人権理事会に招かれ、ご自身の体験と活動について証言を行ったと聞きました。彼は、北朝鮮の人権問題の現状や自らの経験、そして脱北者の方々の声を届け、そのために使命感を持って活動していることを伝えました。
さらに、日本の南博国連大使とも会談を行い、今後の日韓の民間団体の協力のもと、北朝鮮の脱北や拉致問題の解決に向けて積極的に取り組むことを確認したそうです。
このような国際的な舞台での活動により、キム牧師の声が世界に広がり、多くの人々が北朝鮮問題に関心を持つきっかけとなることを願っています。(2面につづく)

 

未来への希望を抱きながら関心を持ち続け行動に移す

キム・ソンウン牧師から話を聞くツアー参加者

(1面からつづき)北朝鮮の人々や彼らを支援する活動は、隣人である日本にいる私たちにとっても大きな責任と喜びです。祈りや支援の手を差し伸べることによって、圧政に苦しんでいる人々が少しでもこの自由世界の現実に触れ、変化をもたらすことができると信じています。
こうした活動を通じて、私たちに課せられた使命は単なる支援にとどまらず、民族や信仰、そして人間の尊厳を守ることにあります。
映画「ビヨンド・ユートピア脱北」が示すメッセージは、その根幹にある「希望」と「祈り」、そして「行動」なのです。未来への希望を抱きながら、私たちはこれからもこの問題に関心を持ち続け、行動に移していくことが求められています。
最後に、私たちの訪問と体験が、より多くの人々に北朝鮮問題への理解と関心を呼び起こし、少しでも平和と人権の実現に近づくきっかけとなれば幸いです。
私たち一人ひとりができることの範囲は限られていますが、祈り、行動、そして支援を続けることで、確かな変化をもたらすことができると信じています。

2025年06月01日号 01面掲載記事)