【書店】本を販売する小売店 【本屋】本を売る人たち
前回
本屋博に出店したような、セレクト書店は続々と生まれている。都内では新しい本屋が集中するエリアがある。渋谷の西部、センター街の喧噪(けんそう)からやや離れた「奥渋谷」で、渋谷東急北側の通りを行くと、出版社が経営するブックカフェ&バー「Bag one」がある。さらに北に行くと、出版、編集、イベント、本屋を兼ねた「Shibuya Publishing & Booksellers本店」。代々木八幡付近まで足を伸ばすと、古本屋「リズム&ブックス」がある。
庭園や植物園で知られる駒込、小石川付近にも新しいタイプの本屋が並ぶ。東洋文庫ミュージアムすぐ横には古本&新刊の本屋「BOOKS青いカバ」、白山通りを南下すると、建築家が営むブックカフェ「Plateau books」、さらに南は「Pebbles Books」、すぐ横にブックカフェ「小石川モノガタリ」がある。
地方でも、商店街再生や古民家改築などで、新型の書店が出現している。様々なイベントが催され、まちづくり、コミュニティーづくりの場になっていることもある。
自分にない思考回路発見
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本屋博最後のトークイベントでは、「まちを変える本屋」のテーマで、一般書店から独立、転職したベテラン書店員らが登壇した。
「読書離れだとか、出版不況だとかひとくくりに言うのはやめよう。本屋も読者も画一ではない。100人に100通りの本がある」。岩手県盛岡市のさわや書店に勤務後、楽天ブックスネットワークに転職した田口幹人さんが口火を切った。


久禮亮太さんは、個性を強調したセレクト書店の動向に注目しつつ、「書店員自身の頭の引き出しには限界がある。書店員の思いだけで閉じずに、自分の中にない新しい価値観、多様性に開かれることが大事。セレクト書店は新しいフェーズに入っているのでは」と述べた。久禮さんはあゆみBOOKSからフリーとなり、様々な書店のコンサルタントほか、Pebbles Booksを運営する。

辻山良雄さんもセレクト書店について、「いかにもセレクト書店の本というような、似たような本が並ぶことがある」と指摘。自身はリブロ池袋店退職後、東京・荻窪で書店Titleを開店。小出版や専門書なども取り扱うが、近隣に子育て世代が多く、子ども向けの学習書やマンガなどもそろえ、「まちの本屋」の役割を果たしている。

本屋の価値については、「人が生まれてから死ぬまでのすべての内容があることが他の小売と違う」「自分の文脈にないものを発見し、もう一回思考の回路をつくり直せる」(田口)、「探していた本を見つけるだけでは、本屋はつまらない」(辻山)などが挙げられた。
久禮さんは「書店員が文化的に優位に立ち、指し示す、という関係でいたくない」と注意を払った上で、「お客さん自身が本を発見する喜びをもってほしい」と語った。辻山さんも「書店員もお客さんに教わりながら世界が広がる」とうなずいた。
田口さんは本、読書そのものの意義についても触れた。「中卒の7割が教科書を読解できないという報告がある。また、本を読まない理由についてアンケートでは、『読みたくない本を読まされた』『なぜ本を読むのか教わらなかった』が上位だ。読書をしない理由は、スマホの普及だけではない」と話した。実際に田口さんは学校、学校図書館、公立図書館と連携し、読書の普及に努めている。
これに付け加えて辻山さんは、「本はすぐ身になる養分ではない。今の人は失敗を恐れがち。インスピレーションで本を選んでもいい」と勧めた。
最後にそれぞれの思いを述べた。田口さんは、「同じ本でも違う出会い方がありうる。だからこそまちの本屋があってほしい」、辻山さんは「人は会う前と後では印象が違うということがある。本にもそのような出会いがある。いろんな本屋があってほしい。その人を変えるかもしれない」、久禮さんは「文化論だけではなく、書店員としての技術をひとつひとつ磨いてお客さんに向き合っていきたい」と語った。
個性から、人と人、まちとのつながりへ。本屋博では「本屋は人」、「本をあいだに置き、人と人とをつなぐ存在」というイメージが、ブースや語らいの随所に表れていた。
このような本屋がコロナ禍で営業が困難になっている。4月30日には全国の書店を応援する「Bookstore Aid基金」がクラウドファンディングで始まった。本屋博もオンラインのイベントを5月5日に実施した。これらにも人のつながりが生かされるだろう。
さらに本屋は東アジアもつなげている。このことを次回見ていこう(つづく) 【高橋良知】
