【映画評】持てる者と持たざる者との相克 解消するには? 『デッドマンズ・ワイヤー』

 1977年2月、真冬のインディアナポリスで全米の注目を集めた人質立てこもり事件が発生する。自分の首と人質の首をショットガンとワイヤーで固定し、無理に動けば自動発砲されるという装置(デッドマンズ・ワイヤー)を自作した中年男性トニー・キリシスが、不動産ローン会社に全財産を騙(だま)し取られたとして、社長の息子で役員のディックを人質に取ったのである。


 本作は、実際に起こった出来事に基づいている。監督は『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)の巨匠ガス・ヴァン・サント。なぜ半世紀前の事件を、彼は今映画化したのか? 監督は以下のように語る。「我々は2024年11月に制作を開始しましたが、制作期間中に世界情勢が急速に変化していく中で、物語と現実の出来事との間に不穏な共通点があることに気づきました」


 本作が描き出すのは、持てる者と持たざる者との相克である。不動産ローン会社の社長(演じているのは、名優アル・パチーノ!)と、彼の口車に乗せられた(本人はだまされたと思い込んでいる)冴(さ)えない中年男性トニーとの対比である。


 まともに犯人(トニー)と向き合おうとしない社長の姿は、現代アメリカ富裕層の思考と酷似している。一方、自己顕示欲の塊で、他人の意見、説得を一切聞こうとしないトニーは、「貧しき白人(プア・ホワイト)」として生きざるを得ない現在の貧困層を象徴している。


 ついに業を煮やしたトニーは、ディックを連れてテレビの前に現れる。そして自分の言葉に興奮し、自らの言葉に酔いながら、ワイヤーでつないだショットガンの引き金に手をかける。やがて一発の銃声が辺りに鳴り響くのだが―。


 本作は、今から半世紀前の「事件」を題材にしながらも、現代のアメリカ社会を活写し、その有様を糾弾していると言える。ある資料によると、アメリカのわずか10%の富裕層が米国総資産の66・6%を牛耳っているという。一方、人口比50%の貧困層が保有している資産は、わずか2%である。両者の間には「消えない格差・分断」が存在しているのである。これを人間の業として解消することができるのだろうか? 残された道は、トニーのように暴力に訴えることしかないのか?


 見終わって、次の聖句を思い出した。
「キリストは私たち二つのものを一つにし、ご自分の肉において、隔ての壁である敵意を打ち壊し、様々な規定から成る戒めの律法を廃棄されました」(エペソ2・14-15)。


 人が生み出した格差と分断。そこには明白な壁が存在し、敵意が渦巻いている。それを一気に解決することはできない。まず私たちにできることは、この聖句にある「キリスト」を心に抱くことではないだろうか。現実を具体的に変化させる第一歩は、キリストの十字架を見上げて、深呼吸をひとつすることから始まるのかもしれない。

評・青木保憲 グレース宣教会牧師

『デッドマンズ・ワイヤー』

 監督:ガス・ヴァン・サント 脚本:オースティン・コロドニー 音楽:ダニー・エルフマン 出演:ビル・スカルスガルド、デイカー・モンゴメリー、ケイリー・エルウィス、マイハラ、コールマン・ドミンゴ、アル・パチーノ
2026年/アメリカ映画/カラー/ビスタ/105 分/G 7月17日(金)より全国公開
公式サイト: https://movies.kadokawa.co.jp/deadmanswire/公式 X:@KADOKAWA_pic 配給:KADOKAWA © 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.

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