町の「香り」を言葉に『ベイルート961時間』 牧師編 第6回 鎌野直人 普段着の読書

 娘が会社の先輩と京都までレバノン料理を食べに行った。そこで、自分の父がレバノンに行ったことがある、と話したそうだ。私が渡航したのはレバノンではなく、ヨルダンなのだが、娘の話を聞いてレバノンに行きたくなった。


 旅行では可能な限り現地の名物を食べようとしている。ザルツブルクのシュニッツェル、チェンマイのカオソーイ、ロスアンゼルスのハンバーガー、シンガポールのラクサ。食は町を知る絶好の方法である。

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『ベイルート961時間(とそれに伴う321皿の料理)』関口涼子著、講談社、1,760円税込、四六判、2022年

 「壊滅」前の町の 「五感のアーカイブ」

 レバノンは、内戦、シリアによる実効支配、反シリア運動、イスラエルによる侵攻、反政府運動とこの50年、激動の歴史を経験してきた。今もイスラエルとの紛争が絶えない。


 コロナ禍下の2020年、ベイルート港爆発事件というカタストロフが起こり、数千年の歴史をもつ町は壊滅的な被害を受けた。その直前の18年、フランス在住の作家、関口涼子は、961時間、ベイルートにとどまり、321皿の現地の料理を食べた。その経験をエッセイにまとめ、フランス語で出版し、自ら日本語にも翻訳した。カタストロフ前のベイルートの食について、カタストロフ後にまとめた「料理本」である。 ただし、同じものはもはや存在しない・・・

(次ページ[下部ログインボタン]で、食でベイルートの「肌に触れ」る、人々が助け合い、何とか解決策を見つける、など)

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