今から約500年前、1517年10月31日、ドイツのヴィッテンベルグの城教会の扉に、一介の修道士マルティン・ルターによって、「95カ条の提題」が提示された。
それは、当時カトリック教会が販売していた贖宥状(免罪符)を問いただし討論を呼びかける95カ条で、正式には「贖宥の効力を明らかにするための討論」という。それはささやかな第一歩だった。ところが歴史が動いた。これが発端となり、宗教改革運動が始まる。結果として、プロテスタント教会が誕生した。つまり、宗教改革の始まりは、もともとは「討論」の呼びかけだったのである。
ところで今日でもそうだが、大学の授業には二つのやり方がある。一つは教師がやや一方的に語る講義形式、もう一つは教師と学生が一つのテーマをめぐって共に討論し合う演習(セミナール)形式である。ルターの時代の大学でもそうだった。つまりルターは免罪符の問題を、それが聖書から見て正しいか否かを学生や他の教師らと討論したかったのである。
これは重要だ、と思える問題を討論する。これがルターの神学の一つのスタイルである。ルターは生涯に60の討論提題を残しているが、彼の思想を深く知るためには、この残された討論を検討することが必要となる。
このたび金子晴勇氏によって編集・翻訳された『ルター神学討論集』には、最も重要な13の討論提題が収録されている。今までわが国には、このようなルターの討論がまとめられて本になったことはなかった。実にありがたい1冊である。
自由意志、十字架の神学、受肉、キリストの神性と人性、義認、人間論、律法、抵抗権などなどの問題。いずれもルター神学の基本テーマである。つまり、これによってルター神学の勘所がわかる。
それぞれの「討論」には、金子氏によってていねいな解説、注、研究が付されている。もちろん内容は高度だが、ルターの思想を正しく学びたい者には必読の書と言えよう。
(評・江口再起=東京女子大学教授)

