
教会と戦争に向き合う葛藤を20~40代が語り合った。「戦後80年、私になにが関係ある?」をテーマとした「2025年信州夏期宣教講座エクステンション」(同講座実行委員会主催、7月21日)は、東京・千代田区のお茶の水クリスチャン・センターKGK学生ホールで開かれ、世代をこえた語り合いの機会となった。基調講演に続き、牧師やKGK主事によるパネルディスカッションがあり、戦争、平和、信教の自由について、それぞれの置かれた場でのリアルな葛藤と思索が分かち合われた。
8月5日 3:00 PM
「人々に、権力に、認められたい」に気を付けて

基調講演は、辻幸宏さん(改革派大宮教会牧師)。戦争、災害、疫病が発生している現代世界の状況を確認し、レビ記26章24、25節を引用して、「主は人の罪の刑罰の一つとして、戦争、疫病を起こすが、父なる神の計画の中で起きていることを覚えたい」と勧めた。
また「私たちは、天地創造から神の国の完成まで、という聖書の中に生きている」と強調。「人は、神のかたちに似せられて造られた(創世記1・27)が、罪を犯した。同じ本質で、今も私たちは生きている」と述べた。
「聖書と同時に歴史からも学んでほしい」とも推奨。前日の参議院選挙の結果に触れ、「戦前の日本を賛美するような政党が国会に入ってくることに、がく然とする。外国人と少数者の差別の先に、戦争があることを歴史から理解していただきたい」と語った
「人々に、また権力者に、認められたい、ということの結果として福音が曲げられていないか。戦前の日本で、三教会同として、神道、仏教とともに、キリスト教が認められ喜んでいた。だが実態は、戦争協力となった。また『神社は宗教にあらず』として、教会代表者らが神社参拝をし、礼拝中に君が代を歌い、宮城遥拝をした」と歴史を振返った。
⽇本キリスト改⾰派教会で2023年に発表した平和宣言(「平和の福⾳に⽣きる教会の宣⾔」)から、「構造的暴力」の項目に注目した。「直接戦争に関係がないと思われるが、人権侵害やハラスメント、環境問題には、罪の本質が現れる。これらを是認する社会の延長線に独裁があり、戦争がある。同じような罪を繰り返さないように、御言葉に聞き、歴史から学び続けたい」と励ました。
「周りと違う」に葛藤した

パネルディスカッションには本間羊一さん(同盟基督・新発田キリスト教会牧師)、金道均さん(同盟基督・塩尻聖書教会主任牧師)、金やすみさん(同教会担任牧師)、髙木創さん(福音伝道・沼田キリスト教会牧師)、久多良木結(くたらぎ・ゆふ)さん(KGK主事)が登壇した。鎌田泰行さん(KGK主事)が司会し、それぞれの問題関心や葛藤を分かち合い、若者にこのテーマを伝える方法を考えた。
本間さんは、神学校での学びを通して「教会と国家」の問題に関心を持った。「教会実習中の一環で、信州夏期宣教講座に初めて参加し、牧師や信徒の方々が真剣に議論する姿が印象的に残った。このテーマのうちに、『教会』と『国家(あるいは日本)』の間において切り結んだり、実のある対話をしたりする接点のようなものがあると考えるようになった」と言う。
やすみさんは、韓国の殉教者朱基徹(チュ・ギチョル)の研究者でもある父の影響で、日韓関係を身近で体験していた。夫は韓国人の道均さんだ。
高木さんは、「神社は宗教ではない」というほどに神社が根付いた地域で暮らし、地域とのかかわりに葛藤を感じることも多い。「子どもの保育園でお神輿(みこし)が造られるが、見かけは宗教的ではない。宗教的な意味があるかどうか、その実態、文脈、過去の経緯を考慮していくのは、私たちの側に責任があるのではないか」と述べた。
道均さんは、「韓国人であり、日本の教会の牧師である。8月15日になると、どう教会でメッセージを語るか葛藤している」と話した。
久多良木さんは、大学卒業から2年。幼いころから戦争に関心を持ち、史跡を訪ねていた。KGKの全国訓練会で、初代教会から日本の戦後まで、教会と国家の歴史を学んだ。「学びの空気は非常に重かった。私は祖父母も戦後生まれで、戦争の話を直接聞くことがない世代。いま日本はもっとも長く信教の自由が許されている時代。戦争をくりかえさず、破れ口に立つ若者が求められています」
続いて葛藤について聞いた。高木さんは、「牧師の父から、小学校の卒業式に、日の松・君が代で起立斉唱しないよう言われていた。子ども時代は、周りといっしょでありたい思いがあるので、葛藤があった。来年、上の子が小学校5年生。卒業式に向けて、何をどう伝えるか今から悩んでいます」
久多良木さんは、小学校の修学旅行で、神社での祈祷行事に、何も説明されずに参加させられた経験を話した。「その場にいることに罪悪感があった。学校は宗教的なことではなく、文化的なこととして組み込んだのだろう。しかし少ないとは言え、他宗教の人がいるのに、対応に問題を感じた。今後親となったときにどのようにこのようなことに向き合うかと思います」
やすみさんは、卒入学式では日の丸・君が代で起立斉唱をしなかったが、困ったのは高校の体育祭だったという。「全員回れ右して、国旗に向かって斉唱していたが、私だけ前を向いて、全校生徒と対峙することになった。さすがにまいり、一度だけ『お腹が痛いので』と、離れたことがあった。思春期は、正解は分かっていても、現実との葛藤が少なからずあります」
本間さんは、「ささやかな経験だが、幼い保育園生の頃、遠足で神社にいって、皆が無邪気に参拝していても、牧師の家庭で育った自分としては『ぼくは違うんじゃないかな』と思ってしなかったことは印象に残っている。今、自分の子どもに対して、立派なことはできていないが、自分なりに君が代や日の丸の意味や歴史を伝えることはあり、子どもたちも何かを考えてくれているのではないか」と述べた。
教会でも、もっと気軽に耳にする機会をもてれば
若い世代に戦争のテーマを伝えるためできることして、まず登壇者は、学びの提供(久多良木)、好き(道均)、朗読(高木)、KGK(やすみ)、読書会(本間)というキーワードを挙げた。
久多良木さんは、「学生の関心の中心は、学業、進路、教会、恋愛など自分の生活に関係があること。戦争や教会と国家の問題は重要だが、学生が自らもっと知りたいと提案するテーマではない。KGKの訓練会や海外の団体と交流する前の準備会などで、限られた学生が学ぶ。私は大学が大分で、そのような学びのアクセスも少なかった。関心が強い人だけではなく、もっと気軽に耳にする機会をもてれば。国のために祈る機会を、KGKに限らず、教会でも持てればと思います」
本間さんは所属教団の新潟山形宣教区の「教会と国家」委員会の読書会を紹介。「お願いすると、若い世代もがんばってまとめを発表してくれる。10人ほどの集まりだが、2人でも3人でも、気持ちさえあれば誰でもどこでも読書会はやれると思う。本を読み、それぞれ感想を語り合ったりすることも含めて『読書』の体験であり、ほんとうの学びになると思います」
やすみさんは、「学生時代関わったKGKでは、聖書的基盤で世界を見る思考を養い、学ぶだけでなく、信頼できる仲間と語り合えたことが良かった」と言う。また、語り合える交わりということで、「私は、ずっと韓国の人に対して、『許されるはずがない』という罪責感を抱えていた。表面上仲良くできても、どこか恐れとうしろめたさがあった。去年、その葛藤がピークに達した時に、現在関わりがある韓国の人たちとの交わりの中で、正直に思いを打ち明けることができた。学ぶのも大事だが、自分の中の思いを「タブー視」せずに、恐れず分かち合える場も必要。そんな交わりが、KGKだけでなく、教会でも出来ればと思います」
高木さんは、1995年以来、各教団教派で出された戦争責任告白の意義を語った。「先人が、侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論の中で、何とか編み出されたもの。不完全かも知れないが重みがある。朗読してみてほしい。朗読動画をつくってもいいのではないか。これらを書類の中でうもれさせず、聴く機会があるといいと思います」
道均さんは、学生時代に参加した日韓学生フォーラムの体験を紹介。「議論してけんかもしたが、相手のことが好きになり、興味を持てたことが大きい。日韓の歴史の影響もあって、サッカー日本代表を心から応援することに抵抗を感じることもありますが、最近では日本の選手たちにも関心を持つようになり、日本代表を応援したいという気持ちも芽生えています。こうした『好き』が少しずつ増えていくことで、若い世代も難しい課題に向き合う勇気を得られるのではないかと思います」
質疑応答では、学生時代から沖縄に関心を持っていたという参加者から、沖縄戦や基地問題、米国関係などの説明があった。学生の参加者は、「教会は主の計画があるという喜びをもって、痛みに向き合って考えていける」と話した。
質疑応答では、学生時代から沖縄に関心を持っていたという参加者から、沖縄戦や基地問題、米国関係などの説明があった。学生の参加者は、「教会は主の計画があるという喜びをもって、痛みに向き合って考えていける」と話した。
小さな交わりの中で深めていけば、必ず広がる

総括として、山口陽一さん(東京基督教大学特別教授)は、こう語った。「基本は聖書に生き、聖書に聞くということだ。若い人と、考えや葛藤を分かち合えたことが新鮮だった。偶像礼拝拒否の葛藤は、過去とつながるコンタクトポイントになる。戦争中は、偶像礼拝拒否は、恥ずかしいというレベルではなかった。信州夏期宣教講座を立ち上げた一人の故渡辺信夫牧師は、『「キリストのために生き、キリストのために死ぬ」べきだったキリスト者が「国のために死ぬ」ことをごまかして受け入れてしまった。戦争責任の根幹はここにある』と語った。過去の教会を責めたいのではない。同じ状況になったら、私たちも同じことをするだろう。だからこそ、歴史を超えてつながる教会は、過去の経験を今に生かしたい。いっぺんに広げるのは難しいが、小さな交わりの中で深めていけば、必ず広がる。教会は伝道して人を増やしたいと願うが、誠実に御言葉に生きることを、小さなことから大事にしていきたい」
キリスト者学生会(KGK)学生宣教局、クリスチャン新聞、いのちのことば社が後援。山口さんと本間さん、やすみさん、高木さん、道均さんは、本紙「戦後80年記念 次世代と教会の土台を〝共に〟考える」で連載しており、同連載の内容を補足して『戦時下の教会を知ろう 新たな戦争を回避するために』(山口陽一著、いのちのことば社)が刊行している。昨年の信州夏期宣教講座と同講座30年を振り返る『戦争の「犠牲者」とは誰か 元イスラエル軍兵士の証言と教会の戦争責任』も発売された。
第32回信州夏期宣教講座は、8月18~19日、長野県上田市で開催。講師は野寺博文(同盟基督・赤羽聖書教会牧師)、児玉智継(JECA・布佐キリスト教会牧師)。詳しくは同講座ホームページから(締切は8月7日)
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