
他者性・和解の神学』ミロスラフ・ヴォルフ著
彦田理矢子訳
新教出版社
A5判・560頁
定価7,920円税込
【評者】片野 淳彦(かたの・あつひろ)
中央大学大学院、アナバプテスト・メノナイト聖書神学校を修了。法学修士・平和学修士。酪農学園大学ほか講師。日本メノナイト福住センター勤務。メノナイト世界会議「信仰と生活」委員。東北アジア和解(NARI)フォーラム運営委員。東北アジア地域平和構築講座(NARPI)講師(修復的正義)。
1996年の暮れ、私は留学中の神学校の図書館でクリスチャニティトゥデイ誌を読んでいた。「40歳未満の40人」という特集で、21世紀のキリスト教界をリードするであろう若い神学者/教会指導者が取り上げられていた。その中の最年長で、すでに40歳だが特例として取り上げられていたのがミロスラフ・ヴォルフであった。再洗礼派にも影響を受けたという彼の神学に興味を抱いて私が手に取ったのが、『排斥と抱擁』の初版本である。30年を経てその改訂版(2019年)が邦訳されたことを喜び、訳者の労を多としたい。
恥を忍んで告白するが、30年前の私は原書を通読できなかった。3か国の神学校に学び、神学はもちろん哲学、政治学、社会学の学知を自在に引用する著者の精緻な文体は、私には難しすぎたからである。本書評を書くにあたり、邦訳ならより分かりやすいかもしれないという私の期待は、いい意味で裏切られた。しかしこれは、訳者に責めを負わせるべきことではまったくなく、むしろ翻訳が精確かつ忠実であることの証左である。読者には邦訳の難解さを通してのみ到達できる著者の深遠な神学的探求をぜひ味わってほしい。
幸い、著者は組織神学者でありながら、聖書神学的論述を随所に配している。たとえば、本書の中心となる「排斥と抱擁」については、カインによるアベル殺害の物語(155〜165頁)や、放蕩息子のたとえ話(254〜268頁)を用いて説明されている。神学に苦手意識のある読者は、まず各章末に設けられた聖書テクストの説き明かしを読んでから本論へと読み進めることで、著者の議論をより捉えやすくなるように思われる。
文体の難しさにもかかわらず(むしろそれゆえに)私は本書に魅了されてきた。一つには、本書が平和と和解というメノナイトの教派的アイデンティティの中核を考察しているからであり、もう一つには、本書が冷戦終結後の民族や宗教をめぐる地域紛争(具体的にはユーゴスラビア紛争)が投げかけた問題に対する神学的応答だからである・・・
(次ページ[下部ボタンから]で、自分らしくあるために 隣人を抹消する民族浄化、他者と関わり自分に他者性を招き入れる、正義・真理を犠牲にせず 和解に求められること、など)
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